官能小説販売サイト 北山悦史 『恥じらい水〜薬師硯杖淫香帖〜』
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北山悦史    恥じらい水〜くすけんじょういんこうちょう

目 次
第一章 淫具濡らし
第二章 媚薬よがり
第三章 女郎崩し
第四章 ぬめる二枚貝
第五章 法悦の初娘

(C)Etsushi Kitayama

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 第一章 淫具濡らし

     一

 ながつき(九月)下旬の午後――。
 晩秋の清涼な風が、遥かに広がるばなの海を波打たせている。風に吹き払われたか、空には一点の雲もない。
 日が高いこともあって、寒くはない。むしろすがすがしい。
 けんじょうは薬草と木の実の採集に来ていた。よく来る、かめいど村・うめ村・おしあげ村にわたる丘陵地帯だ。
 たけかごは七分目まで満たされている。時節柄ドングリ類が多く、十枚の布袋はすでに満杯になっている。
(こんなものでよしとするか)
 吾木われもこうを四つかみ採取して脇の竹籠に放り入れ、硯杖は腰を上げた。しゃがむ位置とは空気の層に明確な違いがあり、“空に近い匂い”を感知した。
 ふと、意識が懐の財布に行った。
 今は亡きゆきの秘香に似た匂いを持つ秘毛を、入れている。いつか当の女に出会えればというおまじないのようなものだが。
 その秘毛を得たのは、ここからいくらも離れていないところだった。さつ(五月)の中旬だったか、夏の薬草を採取に来た時だ。
 かぐわしい匂いが風に運ばれてきた。女の匂いであるのはわかったので、鼻を頼りに足を運んだ。
 媚香の出所は、ふたかかえぐらいあるくすのきの近くだった。そこの草地で、女が小用を足したのだ。
 驚いたことに、匂いは初体験の女、さしずめ天女のものがこうであろうかという雪乃のものにそっくりだった。
 そして排尿した女は、一本の陰毛を落とした。財布にあるのは、それだ。
(しかし我ながら、この鼻はすごいな)
 青空に顔を向け、硯杖は晩秋の空気を吸った。
 ――と、また、匂いを嗅ぎ分けた。
 女の匂いだ。尿ゆばりの匂いではない。
 肌か。いや、もっと秘めやかで濃厚でいんな匂いだ。
 左から右へゆっくりと顔を巡らせ、丁寧に吸った。
 顔が右真横を向いた時、匂いは最も強くなった。あの楠の方角だ。硯杖は仕事を終わりにして竹籠を背負い、そちらに向かった。
 枯草のゆるい斜面を右上に進んでいる。楠までは一町近くもあろうか。
 少し行ったところからずっと枯れ尾花の白い海が続いているが、途中で大きくくぼんでいるようだ。
 向かっている方角から、強くもなく弱くもなく風が流れてきた。
(おおっ、これは……)
 胸いっぱいに吸った。
 淫香と言って、間違いない。女のだ。じっくりと吟味した。男の匂いはない。だとすれば、女が一人で……。
 胸をときめかせ、硯杖は歩を速めた。尾花の群れに分け入っている。音を立てぬよう、気をつけて歩いていく。
 仕事がら、女とはしょっちゅう肌を合わせている。二十三歳で独り身の暮らしだが、女はいくらでもタダで抱ける身分だ。
 しかし、女に不自由しない境遇であることと、人に知られないことが前提である秘密を覗き見する悦楽とは、別問題だ。
 秘密覗きは、三人、いや四人の女と交合する以上の価値がある。覗く女に指一本触れずともだ。
 今、風は止んでいる。だが、女の淫香は目の前のことのように濃くなっている。淫香の発生源は、尾花の波が窪んでいるところか。
 そこまであと十間程度。硯杖は抜き足差し足になった。
「あ、うっうん」
 声が聞こえてきた。
 まぎれもなく、アレの声だ。
 どういう女が、どんな格好でどんなことをやっているのか。若い女か、年増か、人妻か。
「あっ、うう〜ん。突いてぇ」
 鼻にかかった声で女がせがんだ。
 硯杖は足を止めた。男がいるのか。
 嗅覚に意識を持っていった。甘い蜜の匂いがする。砂糖をたっぷり入れたくずのような匂いだ。
(男は……)
 自分の匂いしかしない。目を閉じ、感覚を精妙にした。
 白桃を二つくっつけた形の肉球。尻肉だ。その谷割れから、花びらのように蜜が広がり出ている。
 男の影はない。
「突いて。ぐっぐって。強くぅ」
 また、女が求めた。
 男がいないということは、女が二人なのか。そろりそろりと近づいていきながら、硯杖は嗅覚に意識を集中させた。
 匂いは一人のものだ。
 数種類が感知されはするが、一人の女の別種のものだ。女は、一人芝居をして妄想を掻き立て、自己愛撫にふけっているのか。
 淫香の出所に手が届きそうになった。硯杖は、女のとは違う匂いを嗅ぎ取った。
(何とまあ、いやらしい女なのだ)
 思わず苦笑いが漏れた。
 そんなことをやっているのは、若い女か。それとも年増か。

     二

 竹籠に尾花の茎が当たって音を立てる。硯杖は籠を下ろしてそこに置き、身を低めて先に進んだ。
「うあっ、うあっ、あ……いい、いい……」
 よがる声が生々しく聞こえてきた。ほんの三間ほど向こうだ。淫香とは異なる匂いも届いてくる。硯杖は這い進んだ。
 密生する尾花のすだれを通して、白いものが見えた。
 肌の色だ。黄色と赤も見える。だいだいいろも見え隠れしている。緑色もちらついて見える。確実に見え始めた。
(おお、やはりそうであったか)
 硯杖は深くうなずいた。顔には自然、笑いが浮かんでいた。
 女はこちらにお尻を向け、獣の格好をしていた。
 恥芯には人参が出没している。
 尾花の簾越しに橙色に見えたのが、それだ。そうして、先ほどから感知されていた淫香とは異なる匂いの出所が、それでもあった。
 葉は、落とされていない。それで、秘口に抜きしされるたびに葉はお尻に当たっていて、さながら緑色の陰毛と言ったところだ。
 着物や腰巻は、お尻がすっかり露出するようにまくり上げられている。着物は、黄色と赤の縦縞模様だ。
 歳の程はわからないが、どこぞの女中だろうか。
「もっと突いて。あっ、あんあん。深く入れて。うっ、うんうん」
 あけすけにおねだりしながら女は腰を振り、下から回した右手に握った人参を出し入れしている。
 頭の中にいるのは、会いたい時に会うことができない好いた男なのだろう。言葉づかいからすると、かなり馴れ合った仲のようだ。
「前からもして。お乳を揉んで」
 人参が抜け出さないように右手で押さえ、女は仰向けになっていく。
 女がいる場所も硯杖のところと同じぐらいの尾花の生え方だが、あらかじめ手を入れたらしく、人一人がゆっくりと寝られる広さがある。
 十五、六歳というところか。愛嬌のある顔立ちの娘だ。
 帯は解かれてはいないが、着物の胸元は緩められていて、乳房から上は暴かれている。真上から陽光を浴びて、肌は目にみるほどに白く光っている。
 娘の秘毛と人参の葉が並んでいる。
 人参は、あらかた抜け出しているようだ。親指を除く指が、人参の上に乗せられている。小指は可憐な感じで浮いている。
 人参が、小刻みに動いた。
「あっ、あああ、気持ちいい」
 朱色の唇の奥に白い歯を覗かせて、娘は快楽の声を上げた。


 
 
 
 
〜〜『恥じらい水〜薬師硯杖淫香帖〜』(北山悦史)〜〜
 
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