官能小説販売サイト 北山悦史 『蜜悦の疼き妻』
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北山悦史    蜜悦の疼き妻

目 次
甘蜜の代価
針先の秘悦
夜桜蜜会
蜜悦の疼き妻
蜜液すすり
蜜愛撫
天上の歓喜
菩薩妻
性春の熟れ園
蜜のお仕事

(C)Etsushi Kitayama

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   甘蜜の代価

     1

 夕方少し遅めのスーパーだった。
 しらかわづきは今日も来ていた。家から車で七分。冷蔵庫代わりに使っている。
 この「スーパーまるふく」は茨城に本店があり、ここ千葉県や栃木県、埼玉県に支店を展開している。大洗港や銚子港、勝浦港から水揚げされた魚介類がウリのスーパーだ。
 小学四年の一人娘、に頼まれていたサイコロステーキを買い、都内の商社に勤めている夫のようすけに刺身を買って、あらかた用をすませた葉月は、何かめぼしいものがないかと売り場をぶらぶらし、今また刺身売り場に来たところだった。
 パックが並べられている広い商品ケースが、さっきより派手な感じがした。よく見てみると、「五十円引き」「百円引き」とシールが貼られているパックに、さらに「半額」のシールが貼られている。葉月は、値引きなしのものを買っていた。片道一時間半の通勤族である夫には、少しでも新鮮なものを食べさせてやりたい。
 三十九歳の夫は、中堅商社とはいえ、今年部長に昇進した。仮にも「部長」、口にするものにも「品」というものがなくてはならない。
 自分が買ったのと同じマグロの刺身に「百円引き」のシールが貼られているのを見ながら葉月がプライドを確認していると、五十年配の女の客がそばにやってきた。
 ショッピングカートを押しているわけでもなければ、カゴを提げているわけでもない。サイフひとつの手ぶらだ。刺身のケースを見回している。
 女は、カツオの刺身のパックに手を伸ばした。が、パックを取り上げはせず、「五十円引き」の上に貼られている「半額」のシールを剥がした。
 まわりには、葉月のほかにも何人かの客がいた。だが、彼女のその行為を見ていたのはすぐそばの葉月一人のようだった。
 葉月が見ているのがわからぬはずもないのに、女はまるで葉月を無視するようにしてそれをやり、シールを指に貼りつけてスタスタと立ち去った。
 買い物が終っていた葉月は興味を引かれ、そっとあとを追った。
 女のショッピングカートは、レジのところに置かれていた。女は何食わぬ顔をして刺身のパックに「半額」シールを貼り、レジに並んだ。
(え〜? こういうのって、あり〜?)
 あっけにとられる思いで女とそのパックを見ながら、葉月はその女の後ろに並んだ。
 女がズルをしたのは、値引きをしていないトロマグロの切り落としのパックだった。小額の値引きなしの、いきなりの半額、ということになる。
 バレないのかしら、と思いながら葉月はレジの店員を見た。高校生のバイトの男の子だ。なるほど、こういう子のレジにつけば、すんなり通過できるのかもしれない。
 事実、葉月の目の前で女は無事通過した。レジを打たれているあいだも平然そのもの、アタシには何のやましいものもございません、という顔をしていた。
 確かに、何かクレームでもつけられれば、商品ケースにあったものをカゴに入れたのだ、と言えば済むことだ。万引きをしたわけでもない。
 自分の分のレジを打たれながら、葉月は女を見た。女は、してやったり! という様子も見せず、日常そのもののような顔としぐさで、買ったものを袋に入れている。
 身なりは、ごく普通だった。このクラスのスーパーに来る客の中では、むしろハイソの部類に入るかもしれない。
(ああいうのがプロの主婦、っていうのかしら)
 葉月はそう思った。セコイといえばセコイ。しかし、カシコイといえばカシコイ。誰がどう見たっておトクだ。値引きしていないものが半額なのだ。
 ズルをしてスタスタと店を出て行く女に、悔しさとも羨望ともつかない気持ちを葉月は抱いた。
 レジを抜けて包装台に行った葉月は、計算してみた。あのトロマグロの切り落としは、八百円か九百円はするはずだ。それが新鮮なままで半額。仮に一日三百円のズルとしても、一カ月で……九千円!
 
 
 
 
〜〜『蜜悦の疼き妻』(北山悦史)〜〜
 
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