官能小説販売サイト 末廣圭 『歓び愛』
おとなの本屋・さん


末廣 圭    よろこあい

目 次
第一章 同級生のお母さん
第二章 十四歳と三十七歳
第三章 白衣の内側
第四章 女医さんの乱れ
第五章 女子中学生の性体験
第六章 ヴァージン教育
第七章 バラの贈り物
第八章 キスの証拠

(C)Kei Suehiro

◎ご注意
本作品の全部または一部を無断で複製、転載、改竄、公衆送信すること、および有償無償にかかわらず、本データを第三者に譲渡することを禁じます。
個人利用の目的以外での複製等の違法行為、もしくは第三者へ譲渡をしますと著作権法、その他関連法によって処罰されます。


 第一章 同級生のお母さん

 路肩に積みあげられた雪が、薄黒く汚れている。
 昨日の朝から降りつづいた初雪は、東京の都心で三センチだと、テレビのニュースで報じていた。雪は嫌いじゃない。でも東京の雪って、どうしてこんなに汚いのだろう。
 長靴の先で、雪の小山を蹴った。
 コチンコチンに固まっていた。
(全部溶けてしまうまで、ずいぶん時間がかかるんだよな)
 学校から自分の家に戻る道は住宅の日陰になっているところが多く、なかなか溶けてくれない。天気がよくなってもゆきけの水で道はびしょびしょになり、長靴をかなければならなかった。
 恰好悪いんだよ。
 もう一度、路肩の雪を思いっきり蹴り上げた。
いてっ!」
 親指に激痛が走った。
 膝から崩れ落ちた。長靴の上から指先をさすった。
「バカッ! 誰だ、雪の中にこんなでっかい石を隠していたヤツは……」
 つま先を押さえながら、雪の中にまぎれこんでいた子供の頭ほどもある石をにらみつけた。
 痛みをこらえて立ちあがろうとした。困った……。つま先がしびれてしまって力が入らない。痛さと痺れに混じって、ずきずきしたうずきを感じた。
(骨折したかもしれない)
 ぼくって、バカだよ。雪を蹴って足の指の骨を折ってしまったなんて、学校中の笑い者になるじゃないか。
 額に脂汗がにじんでくる。
 片方の足に力をこめて、再度立ちあがろうとした。平衡がうまくとれない。ぐらっと上体が揺れた。
(えっ!)
 崩れそうになった肩を、誰かに支えられた。
「どうしたのよ、がわ君」
 声に釣られ、助けてくれた人に目を向けた。
「あっ、弥生やよい……」
「ケガでもしたの?」
「何でもないよ。しゃがんでいたら、足が痺れてしまっただけさ」
「しゃがんでたって、こんな道端で? 何かいたずらをしたんでしょう」
「汚い雪を見ていたんだ、いつになったら溶けてくれるんだろうかなって」
「ねっ、江川君、おかしい。顔が青くて、それに汗がいっぱい出ているわよ」
 心配そうにのぞきこんできた弥生の肩に、つい手を伸ばしていた。痛みがひどくなってきて、一人で立っていることもできない。
 弥生はスカートのポケットから、ハンカチを抜いた。そして額をぬぐってくれる。
「あのさ、足が痺れて歩けないんだ」
 弱音を吐いてしまった。
 痺れているんじゃない。痛さで感覚がしている。
「江川君の家は、まだ遠かったでしょう」
「うん、あと十五分くらい……」
「いいわ、わたしの家にいらっしゃい。少し休んだら治るかもしれないでしょう。ほら、すぐそこだから」
 弥生は唇をとんがらせて、五十メートルほど先の家を指した。どこでもいいから腰掛けたい。長靴を脱いで、痛めた指先を冷やしてやったら、少しでも痛みが引くかもしれないと思った。
「いいのかな」
「一人じゃ歩けないんでしょう。さ、わたしの肩につかまって、ケンケンして」
(弥生って、優しいところもあるんだ……)
 そう思い直した。
 ざわ弥生は三年A組の同級生だ。私立高校に進学したいと聞いたことがあった。少し小生意気な顔立ちで、何とかいう人気バンドのシンガーに似ていた。
 学校ではほとんど口を利いたことがない。
 それだけなおさら、親切に肩を貸してくれる彼女を見直した。
 指の痛さはまるで引いてくれないけれど、手のひらに感じる彼女の、ほっそりした肩の感触が元気を与えてくれる。
 ケンケンなんかみっともない。
 激痛をこらえて、痛めた右足を引きずりながら、そろりそろりと歩く。
「何をしたのか知らないけど、もうすぐ受験よ。江川君は都立に進学するんでしょう」
「うん……。私立だと電車で通わないといけないだろう。面倒だもん」
「おじいさんみたいなことを言うのね。そうだ、わたしと同じ高校を受験してみなさい。そうしたらさ、毎日一緒に通えるじゃん」
 思わず弥生の横顔を見つめてしまった。
 真っ黒な髪を首筋のところで柔らかくカールさせた頭はすごく小さくて、顔の真ん中でつんと尖った鼻筋が、とても可愛い。
(それもいいかな)
 彼女と一緒だったら、早起きも苦にならないかもしれない。
 だけど……。
「でもさ、弥生が合格して、ぼくが落ちたら恰好悪いしな」
「そんなことないわよ。担任の先生がいつも誉めていたわ、江川ひとみは頭がいいのに少し怠け者だから、成績がもう一つ伸びないんだって」
 言って弥生は、ケロケロッと笑った。
 誉められているのかけなされているのか、よく分からない。自分では怠け者だと思っていない。高校に進学するくらいのことで塾に通ったり、夜中まで勉強するのが性に合わないのだ。
 ガリ勉の癖が付いたら、大学進学のときも就職試験のときも、絶えずねじりハチマキで机に縛り付けられ、背伸びして生きていかなければならないような息苦しさを感じる。
 分相応でいいんだ。
 それでも弥生と同じ高校に通ってもいいかな……と、ちょっぴり好奇心がいた。通学の往復にかかる二時間くらいは、一緒にいられるのだから……。
 話しこんでいるうちに、いくらか痛みが治まってきた。
 彼女の家の前まで、やっと辿たどりついた。
 このくらいの痛さだったら、一人で歩いて帰れそうだと思った。でも、初めて親しく話した弥生と、もう少し一緒にいたい。家に帰っても、誰もいないのだし。
「あのさ、ぼく、ほんとうにお邪魔してもいいのかな」
 玄関のブザーを押している弥生に、聞いた。
「大丈夫よ、ママがいるだけよ。ママはね、昔、ナースをやっていたから、足をてくれるわ」
「えっ、看護婦さんだったの」
「そう、大学病院で。そこでパパと知り合って、大恋愛をして、わたしが産まれたらしいの」
「ヘーっ、そうするとお父さんは、お医者さんだったのか」
「そうよ、今はじろで開業しているわ、外科専門の病院を」
 どうりで立派な家だ。
 警視庁で警部補をやっているお父さんがローンで買った建売り住宅とは、外観からして違う。
 ドアの奥から足音が聞こえた。重そうなドアが開いた。それまで弥生の肩につかまっていた手を、慌てて引っこめた。
「あら、お友だち……?」
 顔を出した女の人が、少しびっくりした声で言った。
「うん、同級生の江川君。すぐそこの道でね、うずくまっていたの。足をケガしたみたいだから、連れてきちゃった。だって、すごく痛そうにしていたから」
 弥生が説明している後ろから、ぺこりと頭を下げた。
(そっくりだ……)
 淡い栗色に染めたらしい髪を、頭の後ろに丸く結いあげている髪形は違うけれど、目鼻立ちや輪郭のはっきりした唇は、弥生とうり二つなのだ。
「すみません、急にお邪魔して」
「いいのよ、さ、早く上がりなさい」
 お母さんの指がすっと伸びてきて、手を握られた。細い指先がすごく温かい。
(恰好悪いよな……)
 雪解けの水で長靴は泥だらけになっていた。
 痛さをこらえて玄関に入った。
(あっ……)
 お母さんのもう片方の手で、脇腹を抱きかかえられた。甘い匂いがぷーんと漂ってきた。


 
 
 
 
〜〜『歓び愛』(末廣圭)〜〜
 
*このつづきは、ブラウザの「戻る」をクリックして前ページに戻り、ご購入されてお楽しみください。
 
「末廣圭」 作品一覧へ

(C)おとなの本屋・さん