官能小説販売サイト 末廣圭 『ときめき愛』
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末廣 圭    ときめき愛

目 次
第一章 校長室の出来事
第二章 隣のお姉さん
第三章 白いワンピースの内側
第四章 男の誘い
第五章 シャワーの刺激
第六章 親子喧嘩の果て
第七章 先生の告白
第八章 みそぎあかし

(C)Kei Suehiro

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 第一章 校長室の出来事

 いけねーっ!
 校門を出て百メートルほど歩いたとき、自分のバカさ加減に呆れて笑ってしまった。校庭の端っこに植えられているかしの木の根元に、大事な教科書を入れたバッグを置き忘れていたのだ。
 午後の授業が終わったあと、久しぶりに友達とサッカーを愉しんだ。真夏の太陽がギラギラ照りつけているグラウンドで、一時間以上も走りまわった。
 下着もワイシャツも汗みどろになった。
 洗面所で顔と手足を洗ってさっぱりした。パンツまでびっしょり濡れて気持ち悪かったから、早く家に帰ってシャワーを浴びたかった。
 カバンを樫の木の下に置いていたことなんかすっかり忘れて、校門を飛び出していたのだった。
(ぼくって、おっちょこちょいなのかな)
 クラブ活動で下校の遅い友達と顔を合わせるのが、ちょっと恥ずかしいけれど、ニヤニヤ笑ってした。
 急いで校庭に戻った。黒いカバンは樫の木の下に、ぽつんと置かれていた。
 あれほど暑かった夏の陽射しは西に傾いて、いくらか涼しい風がった頬を撫でていった。
 校庭には誰もいない。
 いつもは騒々しい三階建ての校舎に西日が当たり、何となく寂しそうだ。
(この学校に通うのも、あと半年なんだ……)
 人影のない校舎を見まわしながらがわひとみは、今までに感じたこともなかった大人びた感慨にふけった。三年間の中学校生活は、またたく間に過ぎようとしている。高校は都立に進学すると心に決めていた。
 そのあとのことは、よくわからない。
 お父さんは警視庁の公安部で警部補をやっているのだから、父親を真似て刑事になってみようかなと考えることもある。
 でも腕力にはからっきし自信がないし、おっかなそうな犯罪者を追いかけて拳銃の撃ち合いにでもなったら、逮捕することより、自分が逃げ出すことを先に考えてしまいそうで、もう一つ乗り気にならないところもある。
(カバンなんか忘れるから、こんなことを考えてしまうんだよな……)
 また一人笑いを漏らした。
 学校の表門から出ていくのが何となく気まずくなり、校舎に沿って歩き、裏門にまわろうとした。そこは職員室と校長先生の部屋が並んでいる一角だった。
 先生たちも下校したのか、職員室もひっそりしている。
 さほど成績が悪いわけでもないのに、職員室は苦手だった。たまに職員室に行くと、わざと怖そうな顔をして、ギロリとにらんでくる先生が多いからだ。先生としての威厳を示そうとしているのだろうが、いつもあんな目付きをしていたら、ほんとうに人相が悪くなってしまうんじゃないかと、心配になる。
 校舎の壁に隠れるようにして、急ぎ足になっていた。
 瞬間、ハッとした。
 白い影が廊下を走ったからだ。目だけを窓に寄せ、覗いた。
(誰だ……、まだ先生が残っていたのか?)
 白い影は校長室の前で立ち止まり、ちらっと後ろを振り返った。
(あっ、もも先生じゃないか)
 白いスーツ・スタイルの女の人は音楽を担任している百瀬のり先生だということが、すぐにわかった。
 今ごろ校長室に入っていくなんて、おかしいぞ……。校長先生が下校したのは、サッカーをやっていたときだった。
 遠くからだったけれど、頭を下げてあいさつしたから、はっきり覚えている。
 校長室のドアの前で、百瀬先生が立ち止まったのは二、三秒だった。まるでドロボーが忍びこむような恰好で先生は、背中に流れた髪をなびかせながら、さっとドアの内側に消えてしまった。
 心臓が急に高鳴った。
 百瀬先生が校長室で何か悪いことをするとは思えない。壁の下に這いつくばるようにして、様子をうかがった。
 おかしい……。いつまで経っても出てこない。
 校長先生は不在なのに。
 百瀬先生が部屋の中で何をしているのか、見たくなった。廊下側の窓はカーテンが引かれている。裏の窓から覗いたら見えるかもしれない。
 校舎に沿って小走りに駆けた。
 校長室の窓と隣の民家とは高い塀で区切られていて、幅は二メートルほどあり、そこには椿つばきが何本も植えられていた。校長室の窓まで忍びよったとき、心臓の高鳴りが一段と激しくなった。
 せっかく引いた汗が、全身から噴いてくる。
(ぼく、悪いことをしているのだろうか)
 いくらか反省の気持ちも出てきたが、誰もいないはずの校長室に、こっそり入った百瀬先生は、ぼくよりもっと悪いことをしているかもしれないのだと、勇気を奮い起こした。
 生い茂る椿の葉陰から、そっと覗いた。
 それほど大きな部屋ではない。壁に沿って高い本箱が二つ並んでいて、窓際に大きなデスクが置かれていた。
 部屋の中をぐるっと見渡した。
(あっ!)
 声が出かかった。慌てて口をふさいだ。
 入口のドアに黒い影を見つけたからだ。黒じゃなかった。濃紺のジャージのジャンパーにトレパンを穿いた男だった。その男の腕の中で白いスーツがうごめいた。
 目を凝らす。
(ええっ……!)
 百瀬先生はトレパンの男に、がっしり抱きすくめられている。百瀬先生は百六十八センチのぼくより十センチほど身長は低かったが、トレパンの男の胸に顔を埋め、とっても小さく見える。
 でも無理やり抱かれているのではない。百瀬先生の両手は男の脇腹にしっかりまわっている。
(ああっ!)
 百瀬先生は顔を上げて……、キスをしているふうに見える。
 何をやってるんだよ。そこは校長室じゃないか。理由の付かない震えが全身を走り抜けた。百瀬先生はすごくきれいな女性だった。小さな顔で丸いひとみが澄んでいた。音楽の授業中にピアノを弾いてくれたこともあった。
 声もきれいだった。鈴が鳴るような高い声で、外国の歌を原語で歌ってくれたときは、先生の顔をじっと見据えながら聞き惚れた。
 その先生がキスをしているなんて……。
 でも、あの男は誰なんだ?
 背中はがっちりしているし、髪を短く刈りあげている。
 ドキンとした衝撃を受けた。間違いない。体育の授業を担任しているおおまなぶ先生だ。学生時代は柔道部にいて、黒帯三段だと自慢そうに言っていたことがあった。
 冗談じゃないよ。
 太田先生がシャツを脱いでいる姿は、何度か見たことがある。胸板は毛むくじゃらだった。いつも赤ら顔で、ヤクザと睨み合ったら、ヤクザのほうが逃げ出してしまいそうな、おっかない顔をしていた。
 ほっそりした百瀬先生をあの腕力で抱きしめたら、骨が折れてしまうじゃないか。それに確か、太田先生には奥さんがいたはずだ。
 不倫をやっているんだ。仲良くキスをしているんだから……。
 二人の顔が離れた。
 長い髪を指先ですきながら、百瀬先生が見上げた。何かしゃべっている。部屋の中は少し暗くなってよく見えないが、百瀬先生の顔がにっこりほほんだ。
 やめてくれよ……、そんな優しそうな笑顔を向けるなんて。
 そうか、太田先生は宿直なのだ。それで二人は密かに打ち合わせをして、校長室であいきをしているんだ。そんなのひどいよ。神聖な校長室で先生同士が密会するなんて……。
(ああっ!)
 太田先生の手が無造作に、百瀬先生の胸に伸びた。下から揉んでいる。百瀬先生は抵抗しない。それどころか、揉まれている胸に目を遣り、そして太田先生の顔をうっとりした表情で見つめ返した。
 二人は愛し合っているんだ。そうじゃなかったら、おっぱいを揉まれてうれしそうな顔なんかしない。
 でも、それって変だよ。太田先生は結婚しているんだよ。百瀬先生は独身だった。百瀬先生は騙されているのだ。そうでなかったらおにがわらみたいにいかつい顔をして、プロレスラーのようにでかいからだをした男に、胸をさわられてうれしそうな顔はしないはずだ。
 自分勝手に想像しても、すごくくやしい気分になってくる。百瀬先生は友達の間でも人気があって、素敵な女性なんだ。
(あっ、だめだ、よせっ!)
 怒りの声が喉から出そうになった。
 太田先生の指がスーツのボタンに掛かり、一つ一つはずし始めたからだ。百瀬先生を裸にするつもりなんだ。
 立っていた膝がガクガクッと震えて、崩れ落ちそうになる。


 
 
 
 
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