官能小説販売サイト 末廣圭 『艶 夢』
おとなの本屋・さん


末廣 圭    えん 

目 次
第一章 盗み見
第二章 義母の想い
第三章 先生のアパート
第四章 ひとみを開いて
第五章 十年前の恋人
第六章 隙間風
第七章 はかない初体験
第八章 夢
第九章 想いのたけ

(C)Kei Suehiro

◎ご注意
本作品の全部または一部を無断で複製、転載、改竄、公衆送信すること、および有償無償にかかわらず、本データを第三者に譲渡することを禁じます。
個人利用の目的以外での複製等の違法行為、もしくは第三者へ譲渡をしますと著作権法、その他関連法によって処罰されます。


 第一章 盗み見

 机の上に開いた教科書の文字が、ぼんやりにじんで見える。一生懸命読んでいるつもりなのに、頭の中にうまく入ってくれない。いつの間にか頬杖を突いて壁をにらんでいた。
(困ったな……)
 がわひとみは真剣に悩んだ。間近に迫った高校の入試のことではない。中学三年になるまでの人生で、これほど深く頭を悩ましたことはなかった。自分では大人の世界に半歩くらい足を踏みいれたつもりだったが、解決策はまるで出てこない。
「瞳君、ご飯よ、早くいらっしゃい」
 そのとき階下のリビング・ルームから、ほがらかな声が響いた。声に釣られ、開いていた教科書をバタンと閉じた。時計を見た。七時になっていた。
(あの人は悩んでいないんだろうか……?)
 そのことを考えるとなおさら、頭が混乱する。わざと大きな足音を立てて階段を駆け降りた。
 その人は子供っぽい猫のアップリケをしたエプロンを掛け、食卓に大きな皿を並べていた。皿にはバカでかいトンカツと千切りにしたキャベツが山のように盛ってあった。トンカッは好物だけど、それほど食欲はない。
「お父さんは今日も遅いの」
 ぶっきらぼうな声で聞いていた。トンカツの皿は二つしか並んでいないのだから、分かりきっていることなのに。
「今夜は徹夜になるかもしれないって。刑事さんも忙しいのね」
「お父さんて仕事をしているときは、ぼくたちのこと、忘れているんだろうな」
「あら、どうして?」
 その人は炊きたてのご飯を茶碗に盛りながら、興味のなさそうな聞き方をした。化粧はほとんどしていない。長い髪を無造作に束ねた顔立ちが、すごく若く見える。
「だってさ、帰ってくるのは毎日、夜中なんだもの」
「しょうがないでしょう、警視庁は人手不足なんですって」
「そうかな、警察官て二十六万人もいるんだよ。みんな頑張って働いているんだろうけどさ、犯罪は全然減らないじゃないか。強盗だとか殺人だとか……。日本て、危ない国になっているんだよ」
 そんな話をするつもりじゃなかったのに、口をとんがらせていた。
「どうしたの、今日は? そんなにおっかない顔をして」
 トンカツをナイフで切っているその人を、まじまじと見つめていた。やっぱりこの人には悩みなんかないんだ。でも、それっておかしいよ。常識的な感覚を持っていたら、少しくらい真剣に考えてくれてもいいじゃないか……。
 トンカツ・ソースをいっぱい垂らして頬張った。
「ぼくさ……」
 そこまで口にしたけれど、続きの言葉がうまく出てこない。口をもぐもぐ動かしながら、こそっと見つめ直した。こっちの一方的な感じかもしれないが、奥歯にものが挟まったようなギクシャクした関係は、すでに二カ月以上続いている。
 もっと言えば、目の前に座っている人との間には、押しても引いても崩れない頑丈な壁ができてしまったようなのだ。
「トンカツ、おいしくないの?」
 その人はいぶかしそうに聞いてきた。
(ぼくが悩んでいることなんか、全然理解してくれていないんだ)
 くされてしまった。
 ……よしともさんと初めて会ったのは、一年半ほど前のことだ。お父さんがどこからか連れてきた優しいお姉さんだった。二人で公園を散歩した。手をつないで歩いたこともある。細い指で強く握ってくれた。
 言葉を交わさなくても、一緒にいるだけですごく幸せで満足だった。
 その芳田智美さんと結婚すると、お父さんは言った。ぼくのほんとうのママは四年前に亡くなって、お父さんは寂しかったのだろう。お父さんが再婚するのに、反対することは何もなかった。
 お父さんと芳田さんがほんとうに結婚したとき、ぼくはびっくりした。お父さんは警視庁の公安部外事第一課に勤務する警部補だ。歳は、そのとき四十ちょうどだった。
 ぼくがびっくりしたのは、仕事一筋で、超真面目で、女の人にはまるで縁のないようなお父さんが、とんでもなく美しい女性と再婚したことだった。年齢は二十九で、お父さんとは十一歳も離れていた。
 公園を散歩していたとき、ぼくはお姉さんと呼んでいた。それがお母さんになった。
 同じ屋根の下に住むようになって戸惑いが多くなった。いや、戸惑いというより、お母さんの美しさにかれていったのだ。きっかけはお母さんの可愛くてセクシーな下着が、洗面台の横に吊るされていたことだった。
 女性のヌードは週刊誌のグラビアでしか見たことがなかった。もっさりした黒い毛や、大きな乳房に興味はあったけれど、お母さんの下着を目にしたときから、お母さんを一人の女性として見るようになっていた。
 丸めたら手のひらに隠れてしまうほどちっぽけなパンティを穿いているお母さんの裸を、いつも妄想するようになった。
 お母さんと呼んでいても、実際は一滴の血のつながりもないのだし、ぼくにとってはグラビアでヌードになっている女の人と、何ら変わることのない存在なのだと思うようになった。
 しかもグラビアの女の人よりはるかに美しくチャーミングで、お母さんを見ているのが苦しくなったこともある。
 洗濯籠に入っていたお母さんの下着に鼻をこすり付け、匂いを嗅いだことがあった。細い股布に小さな染みが浮いていた。ぼくは身震いしながら唇を押しつけていた。
 その染みはお母さんのオマンコから滲んできた粘液だということはすぐにわかったし、すごくいとおしく感じた。
 そのときを境にして、お母さんのからだに対する興味がますますつのった。
 お母さんの寝室に忍びこんで、整理ダンスの中から一枚のパンティを盗んでしまったのは、その数日後だった。ぼくは寝る前にその淡いブルーのパンティを顔にくっ付け、匂いを嗅いだ。
 洗濯したものだったから、お母さんの匂いは感じなかったけれど、そうしているだけでお母さんの裸が目の奥に浮かんできて、チンポコがいきりった。
 ぬるぬるした粘液が先っぽから滲んできた。
 忘れることのできない事件は、お父さんが出張で十日ほど家を留守にした夜に起きた。ぼくの部屋にいきなりお母さんが入ってきた。何を話したのか、よく覚えていないけれど、急にお母さんが躯を洗ってあげましょうか……、と言った。
 ぼくはぎょうてんした。
 躯を洗ってもらうということは、ぼくが裸になって風呂に入って洗ってもらうことだ。ぼくはすぐに断った。ぼくのチンポコのまわりには大人並みに毛が生えてきたし、お母さんにそんなみっともない恰好を見せたくないと思ったからだ。
 いやなの、わたしに洗ってもらうの……。お母さんは少しすねたような顔付きになって、ぼくを見据えた。
 いやじゃないんだ。一緒に風呂に入って躯を洗ってもらうことになったら、お母さんだって裸になるはずだ。お母さんの裸は夢にまで見た憧れだった。素直な気持ちでお母さんに躯を洗ってもらう勇気が湧いてこなかっただけだ。
 お母さんと一緒に風呂に入りたいと思う欲望と、絶対そんなことをしてはいけないと思う考えが喧嘩した。もしチンポコが勃ってしまったら、もっと恥ずかしい……。
 でも欲望のほうが強かった。
 お母さんは全裸で風呂に入ってきた。一緒にバスタブに浸かったとき、それまで感じていた不安や緊張感とはまったく違った感動が、ぼくを奮い立たせた。
 ぼくは裸のお母さんに抱きついていった。
 お湯に濡れた黒い毛にむしゃぶり付いていた。毛の隙間から甘ったるい匂いが立ち昇ってきた。それは牛乳を沸かしているときの匂いのような気がした。
 お母さんと叫んだとき、お母さんは名前を呼んで欲しいと言った。ぼくは夢中になって智美さんと叫び、しがみ付いていた。


 
 
 
 
〜〜『艶 夢』(末廣圭)〜〜
 
*このつづきは、ブラウザの「戻る」をクリックして前ページに戻り、ご購入されてお楽しみください。
 
「末廣圭」 作品一覧へ

(C)おとなの本屋・さん