蘭 光生 愛奴を狩れ
目 次
愛奴を狩れ
I 妹・望美――高校二年・十七歳
II 恋人・希未子――OL・二十二歳
III 詩子と愛――女教師と女子高生
IV 終章
凌辱はフーガに似て
彩られた獣道
キャット・ダンシング
夢魔島
微熱のある午後
(C)K. Ran
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愛奴を狩れ
I 妹・望美――高校二年・十七歳
1
望美は浴槽のなかで、思いきり両手と両脚を伸ばし、大きくのびをした。湯玉がはじけ、すっかり女らしくなった白い肌が透明な湯のなかで青白い人魚のようにゆらめく。
「ああ、いい気持ち!」
きょうはテニス部の対校試合があり、望美はシングルの部でおおいにポイントを稼ぎ、宿敵のライバル校を破った。その興奮と満足感が快い疲労となって、望美の若い肉体に潜んでいたのが、熱い湯にどっぷりつかったことで、一気に湯のなかに溶けだし、体が軽くなったような気がした。
「ザマアミロでございますわ」
相手校のキャプテンをシングルで破った瞬間の相手のくやしそうな表情を思いだし、望美はなにかの映画の宣伝文句をふとつぶやいて、ザバッと浴槽からあがった。
流しの腰かけに座り、目の前の鏡に映る上半身の裸像をうっとり眺めながら、まるでまっ白いゴムボールを半分に切って横に並べたような乳房をおもわず両手で絞るように愛撫してみる。自分でも惚れぼれするくらいの、いい形に成熟した乳房であった。大きな乳房にしてはいくぶん小ぶりな愛らしい乳首とそれをとり囲む乳暈がみずみずしい紅梅色に丸く染めあげられている。もともと白い肌が、二の腕のなかば先からきれいに陽に焼けていた。脚のほうも、太腿のあたりからぼやけるように薄いブラウンに焼け、ソックスをはいている足先のほうが白く残っているのが奇妙なコントラストをつけている。
(今年は海へ行くひまがなかったからいいようなものの、これで水着の焼けあとがついたら、体じゅう、まるで色彩表みたいにだんだんがついちゃうとこだったわ……。それにしても、あたし、ナルシストの気があるみたい……)
自分の裸身をいとおしむように撫でたり、ギュッと乳房を絞りあげてみたり、さすってみたりしながら、鏡に映る姿に見とれている望美だった。クラブの合宿などで、仲間といっしょに風呂に入ったときなど、同級生、いや上級生からもよくからかわれた。
「ほんと、ホープの体、いつ見てもきれいだわ。とても十七歳なんてもんじゃないわよ」
「そうよ。その肉体とその美貌だったら、愛人バンクでバイトできるって。中年のおじさま族をおおいに悩ましちゃおうよ。お金、ガッポリもらってさ」
「愛人バンクか。うん、考えてみよう」
望美がそういうと、
「とはいうものの、ホープ、あんたまだバージンでしょう。処女をどこかの知らないオジンに捧げる勇気、あるのかな?」
「うーん、それも考えておこう」
そんな会話をふと思いだし、望美はおもわずニヤッと笑った。
(愛人バンクか……。あたしの体、ほんとにいくらぐらいで売れるのかな?)
だが、つぎの瞬間にはそんな冗談めいた考えをうち消していた。
(冗談じゃないわ。あたしのバージンは、いつかかならず現われるあたしの恋人にとっておかなくっちゃあ。あたしって、そういうとこ、意外と古いんだもんね……)
彼女は望美という名前にちなんで、「ホープ」というニックネームで呼ばれていた。最初のうちは、「やめて、そんな、タバコみたいな名前!」といやがっていたが、それこそきょうの試合のあとのように、
「ホープ、やっぱりあんた、わが校のテニス部のホープよ!」
などと、部員全員からほめられると、そのあだ名もまんざらでなく思えてくる。
(そう、あたしはホープちゃん。あたしの人生はホープに満ちて、バラ色に染まってるのよ!)
石鹸の泡を全身に塗りながら、望美は自分にこんな美しい顔と肉体をあたえてくれた亡き母親にしみじみと感謝するのだった。
その母親は、望美が小学校に入ったばかりのころに病死している。それでも、母といっしょに風呂に入ったときのことをときどき思いだすことがあった。子供心に、母の肉感的な白い裸像の眩しいような美しさを、なにかひどく誇らしげに感じたことを覚えている。
(あたしもママくらいにきれいになれるかしら……)
立ちあがった望美は、いくぶん爪先立ちする恰好で背筋をピーンと伸ばし、そりかえらせた全身にシャワーの湯を浴びせた。固く張りだした乳房の盛りあがりが、臍のあたりでキュッとくびれ、それが豊かな臀部へと美しい曲線を描いて、スラリとした長い両脚に流れていく。
身長一六四センチ、女としては長身な体から、砕き落とすように打ち返す強烈なスマッシュのスピードと重みのある白球が望美の最大の武器であった。長い脚と小造りな顔が、望美が繁華街など私服で歩いていると、モデルクラブのスカウトたちによく誘われる。それほど、彼女の姿態からは、十七歳の高校生といった幼さは漂ってこない、どう見ても女子大生かOLといった感じの、りっぱな一人前の女の臭いを感じさせていた。
(ああ、おなかがすいた! お風呂から出たらすぐにお夕飯だ!)
父親はやり手の商社マンで、一年じゅう外国を飛びまわっているため、ほとんど家にいない。現に今月もアラビアのほうに行ってしまっていた。あと家族といえば七つ上の兄がひとりである。
母が死んだとき、兄の彰は高校一年生だったが、そのころから彰がぐれだした。高校では成績も悪いほうではなかったのだが、父親がほとんど家にいないうえに金まわりがよく、監視役の母親がいなくなったとたん、彰の欲望をコントロールする存在が消失し、あっというまに悪の道に直行してしまった。
家事は住み込みのお手伝いのおばさんがやっていてくれたが、彼女がいっさい、家人の私生活に口をはさまないことをいいことに、彰は平気で外泊し、タバコを吸い、スケ番とつるみ、バイクを乗りまわし、何回も補導された。大学に入ってからも、金があるのをさいわいに、外車を乗りまわし、若い女をハントしては派手に遊びまわった。しかし、もともと頭の悪いほうではなかったので、学校のほうはなんとか卒業し、父親のコネで中堅の企業に入社した。そして社会人になったとたん、まるで生まれ変わったように仕事に精出しはじめたのである。
「もうおれは、女と遊びは卒業したからね。これからは、親父に負けないくらい、本格的に金を稼ぎまくるぜ」
高校時代の悪友と会ったとき、彰はそうはっきり断言し、その決心を着実に実行に移していったのである。
そんな彰の唯一の自慢の種は妹の望美だった。
「おまえはおれのホープだ。おれの宝石だ」
歳がずいぶん離れているせいか、彰は望美を小さいときから可愛がり、彼女が中学を終わりかけ、急に女っぽくなったころから、そんなせりふをいうようになっていた。
「いまに兄さんが、望美にすごいいい男を探してやるからな。それまでにもっともっときれいになれよな。磨きをかければママよりも美人になれるかもしれないぜ」
そんな兄を、望美はときには父親がわりに、そしてときには恋人のように愛していたのだった。
もう一度湯船に入り、ザッと水しぶきとともに外に出る。
(きょうは兄さん、たしか帰りが遅い日だったっけ……)
望美が高校に入ったときから、住み込みのお手伝いのかわりに、通いの派出婦を頼み、家事や食事の支度をしてもらうようになっていた。その食卓を頭に浮かべながら、望美がバスルームのドアを開けた。だが、踏みだそうとした足は凍りつき、その場にマネキン人形のように棒立ちになった。
声を出そうにも、心臓がしめつけられるように震え、呼吸もできない。
狭い脱衣場いっぱいに、大きな男がいつのまにか立ちふさがるように、のそっと立っていたのである。
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