中村嘉子 愛人たちの街
目 次
心地よい“変 色”
いやらしい眼
媚薬が越して来た
初めての感じ
大人のにおい
個人的なつきあい
蜜のまえの涙
なまあたたかい場所
とろけそう
つきまとわないで
退屈な昼顔
流されちゃう
(C)Yoshiko Nakamura
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心地よい“変 色”
ブルー***
台所に立って朝食の後片付けをしていたら、急にひどく苛立ってきて、洗いかけの皿の一枚を、いっそ床に叩きつけてやろうかという気になった。
実際に洗剤だらけのミート皿を持った手が、硬い床に向かって動いたほどだ。
だが、やめた。
このミート皿は、フランス製で高かった。もったいない。
涼子は、自分の短気を、唇を噛んで戒めながら、皿についている洗剤を洗い落とした。
〈アタシ、やっぱり変……すごく変よ、このごろ……こんなにイラつく人間じゃなかったのに……まわりから、おっとりしすぎてるって言われて、自分でもそういう性格だと思ってたのに……なのに、このごろ、やたらイライラして……すぐ物にあたろうとして……。なんで……? なにが原因で、アタシ、こんなになっちゃったわけ……?〉
食器を次々に洗いながら、涼子は、自問した。
こういうのは、はじめてではない。このごろ、しょっちゅうなのだ。
“自問”はするが、自答はいつもしない。〈なぜなのよ……!?〉と心の中で叫ぶだけで終わってしまう。
だが、“自答”しないからといって、苛立ちの原因を、涼子が判っていないわけではないのである。
心の底では、原因がちゃんと判っている。判っていすぎるくらい、判っている。
だから、“自答”なんかしてしまったら、ますます苛立ってくるに違いない。
原因が判っているのにとぼけて、しまいになぜと問う。目下のところ、それがいちばん無難な、苛立ちのしのぎ方なのである。
「……あーあ、やだやだ……たまんない……たまんない……たまんないたまんないたまんない……」
涼子は溜め息よりも深いところから、声を吐き出した。
とにかく、ものすごく苛立つ。
百遍「たまらない」と言っても全然足りないくらい、たまらない気分なのである。
いや、気分だけの問題ではない。
躰が、躰のある部分が、どうにも辛いのだ。とばくちがズキズキして、奥のほうがモヤモヤして、とにかく、辛い……。
「やだ、もう!………もうオオ……!!」
苛立ちが、弾けてしまった。
涼子は、水道のコックを荒々しくしめると、食器洗いの済んでいない流しから、逃げるように離れた。
「いっつもこうなんだから……翌朝がア……」
濡れた手を拭いもせずに、寝室に駆け込んだ。
新婚の部屋に合わせて買ったばかりの鏡台の前に、立つ。
鏡にうつった自分の取り乱した姿に向かって、やおら、スカートを捲り上げた。
スカートだけではない。パンティも引き下ろして、下腹部を丸出しにする。
鏡に、それがうつった。
それを見て、涼子は、
「アタシの……ココ……」
と、呟かずにはいられない。
「……変なのかなア……? ほかの女性と、違うのかなア……? なこと、ないわよね。異常なわけじゃない……並みよ、並み、並み……」
鏡の中の自分に言い聞かせるように呟きながら、涼子は、丸出しになっているその部分をじっと見る。
淡いピンクのわれめ。
そのわれめをかろうじて隠している感じの、薄すぎない程度に薄めの秘毛。
“いい感じ”の性器だと、これを見るたびに、涼子は思う。
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