蘭 光生 新妻を狩れ
目 次
凌辱の架台
蕾は濡れた
契りきぬ
女探偵 雅映の場合
牝犬への扉
新妻を狩れ
(C)K. Ran
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凌辱の架台
1
一学期の期末テストの時間割が発表になった日、勝彦が家に帰ると、居間に両親と看護婦たちが集まっていた。
勝彦の家は内科、産婦人科の病院で、小さい町の病院ながらも、入院の設備もいちおうととのい、看護婦や薬剤師などを五人ばかり使っていた。勝彦はその若王子医院のひとり息子である。
「勝彦さん、こんどの家族旅行、あさっての土曜日に行くことになってたでしょう。でもあなた、もうそろそろ試験じゃない?」
母の問いに、勝彦がつまらなさそうに答えた。
「うん。きょう試験の時間割が発表になったんだ。来週の金曜日にはじまるんだよ」
「そう、それは残念ね。病院のほうも、ちょうどいま入院患者もいないし、出産の予定もないので、やっぱり、あさって行くことにしたの。看護婦さんたちも全員いっしょに行くんだけど、勝彦さん、ひとりでお留守番てことになるわね」
「ぼくはいいよ。たまにはひとりきりものびのびできていいもんだと思うな」
看護婦のひとりがからかうようにいった。
「まあお坊っちゃん、一人前のことおっしゃって、まるで妻帯者みたいな口ぶり」
みんながどっと笑った。
そのとき、部屋のドアを開けて、若い女性が入ってきた。
「まあ、みなさん、こんなところに集まってらしたのね。病院のほう、誰もいらっしゃらないし、不用心ですわ」
「あら、沙知さん、ごめんなさい。そうそう、きょうは家庭教師の日でしたわね」
「ええ。でもみなさん、楽しそうになんのお話なさってたの?」
「あさって、みんな旅行に行っちゃうんだってさ。ぼくはひとりぽっちでお留守番、てわけ」
と勝彦がぼやいた。
「ああ、例の家族旅行ね。羨ましいわ、この家では看護婦さんも家族の一員ですものね。わたしなんか、いつもひとりだから寂しいわ」
「そうね。沙知さん、ひとりっ子ですものね。あなたもごいっしょできるといいんですけど……」
「あいにく、大学の授業も少し残っていますので、残念ですが今回はご遠慮させていただきますわ」
花岡沙知。勝彦の従姉であった。女子大の三年生で、勝彦より六つ歳上だが、幼いころから若王子家の家族同様に出入りしていた。
勝彦が中学二年生になったとき、アルバイトを兼ねて、勝彦の家庭教師として週二回勉強を教えにきているのである。
ひとりっ子の勝彦は、この美しい従姉が小さいころから大好きだった。彼女がほんとうの姉だったらどんなにかいいだろうと何度思ったことか。
だが最近では、実の姉でなくてよかったという気持ちが湧いてきたことに、勝彦自身、内心驚いていた。幼いころの憧れにも似た思慕の念が、家庭教師を受けはじめたこの一年間に、初恋ともいえる強い慕情に変わってきていたからである。
彼が思春期にさしかかってきたこともあるが、同時に沙知のほうでも成熟期に達し、固い蕾から女の肉体が開花期になり、美しくかぐわしい花びらを開きはじめてきたせいもあった。
勝彦が沙知を、ひとりの女として見はじめたことに沙知自身はまったく気がついていない。六つも歳下の少年であり、まだ中学生であってみれば、それも当然であった。まして、幼いころから子守をしたり、遊んでやったり、お土産を買ってきてやったりしていた沙知にとって、勝彦はまだまだ子供であり、小さな弟のような存在にしかすぎなかったのである。
「そうそう、勝彦さん、もうそろそろ期末テストでしょう?」
「うん。来週だって」
「がんばってちょうだい! いまのうちに、いい成績とっておかないと、内申書にひびきますからね」
「だから、今年の旅行も、勝彦は不参加だってはじめからきまっていたんだがね」
父親の若王子武彦がはじめて口をはさんだ。
「そうですわ、わたしがいっしょにお留守番いたしますわ。合宿で徹底的に試験勉強の手伝いをいたします」
「まあ、沙知さん、ほんと? そうしていただければいちばんありがたいわ。食事のほうも安心だし」
「その点はご心配なく。当方といたしましては出血的大サービスをいたしますから」
「当方でも、出血的大サービスとして、お留守番の分、ボーナスをさしあげますわ」
これでまた大笑いになった。だが、沙知がおどけて口にした出血的大サービスが、文字どおりの、それも陰惨なものになろうとは、夢にも思わなかった。
この会話を聞いた瞬間、勝彦は心のなかで悪魔が笑うのを聞いたように思った。
(やっとチャンスがきた、この一年間、待ちに待ったあの夢の世界を現実の世界にひきもどすチャンスが!)
「あら、勝彦さん、深刻な顔しちゃって、お姉さまにしぼられるのが、そうとう怖いと見えますな」
沙知が明るく冗談めかしていいながら、勝彦の肩に両手をかけてゆさぶった。
「さあさあ、元気をおだしなさい。さ、きょうはお勉強、お勉強! あしたは泊りがけで、みっちりしごきますからね」
勝彦の薄い夏のシャツを通して、沙知の柔らかい掌の感触とぬくもりが、勝彦の体に伝ってきた。内心を見すかされはしないかという危惧と羞らいから、おもわず体を固くする勝彦だった。
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