由紀かほる 脚線奴隷
目 次
第一章
第二章
第三章
第四章
第五章
(C)Kaoru Yuki
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第一章
絹子の挑発
サイドテーブルの上の電話が鳴って、由布子はソファベッドに寝そべったまま受話器をとり上げた。
「若奥さま、浅川さまからお電話でございますよ」
家政婦のたみ子の声がした。
「お繋ぎして」
由布子はそう云って受話器を左手に持ち代えた。
「お早う、若奥さま」
唱うような絹子の声が流れてきた。
「今日は行くんでしょう。アスレチック・クラブへ」
「ええ」
「三十分で迎えに行くわ」
「駄目ッ」
ちょっとあわてたように、由布子は云った。
「一時間後にして」
「いいわ。今何してるの」
少し云い淀んでから、
「パック」
「全身パック?」
「顔だけ」
「フフ、あなたみたいに若くてきれいな人がパックするなんて。どんな顔してるか、見てみたい」
「意地悪」
「じゃあ裸なんでしょう」
ドキリとした。電話じゃ見えるわけないのに。
「違う」
「嘘おっしゃい。正直に云わないと、絶交よ」
「ご免なさい。でも、ガウンは着てるわ」
「今日は彼とするつもりなのね」
「嘘よ」
彼とはアスレチック・クラブに先週から入った新人のインストラクターで、するとはもちろんセックスのことである。
新人が入ると、必ず誰よりも先に味見をする絹子が、今回に限ってしきりに由布子をけしかけるのだ。
が、この刀根家に嫁に来てから一年半、由布子は一度だってつまみ食いをしたことはない。
「ご主人、見かけによらずタフなのね。由布子を一人で満足させるなんて」
半年前、誘ってもなびかない由布子を見て、絹子は意外そうに云った。
が、新婚一年の新妻が、他の男と寝たがるなんて聞いたことがない。
それでも絹子は、
「あと長くて半年、短くて三月ってとこね」
悟りきったように云ったものである。
その半年を眼の前にして、絹子の予言が当たろうとしていた。
それにはしかし、夫の一郎太が半年前から一年間の海外出張という思わぬハンデがあった。
父親の刀根英治郎が刀根商事という一流会社の会長をしており、一郎太自身次の社長の椅子を約束された重役であるにもかかわらず、
「このまま社長になったのでは、いざというときどうも不安だ。一つ今のうちに海外で武者修業をさせておこう」
という英治郎のツルの一声で、新婚一年目にして突然、海外へ単身赴任を命じられたのである。
だから、つまみ喰いはもちろん、定食すらこの半年ありついていなかった。
「あと半年も断食できて?」
「えっ、ええ――」
「できるもんですか」
「できるもの」
「できっこないわ」
「するもの、絶対」
云いながら、しかし、由布子自身できっこないと心の隅で感じていた。
「彼、とても大きいわよ」
云われて、ギクリとした。
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