官能小説販売サイト 作者不詳 監修・小宮 卓 『いろつばき〜性の秘本セレクション7〜』
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作者不詳 監修・小宮 卓 いろつばき〜性の秘本セレクション7〜
目 次
いろつばき
 一、鬼百合の花
 二、熱海の旅館
 三、美しい不義
 四、嵐を呼ぶ女
 五、迎え火
 六、ネオンの灯
 七、のたうつ淫獣
 八、炎たぎる女体
 九、狂態乱舞
附 青春をわれに
色情の館
 女中
 視姦
 男あんま
 よがり泣き
 ただれた愛欲
解説

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 いろつばき


 一、鬼百合の花

 女というものは何かにすがつたり、打ちこんだり、信仰してゆかなければ生きてゆけないものらしい。特に水商売の女は、概して何時も客に遊ばれている反動で、時には無茶苦茶に我が儘を云つてみたい欲望に駆られるものである。だから惚れ合つた気儘の云える亭主をもつた女給など、家へ帰ると、まるで駄々ツ子のように亭主に甘つたれたり、求めたりすることが多い。
 こう云うところに勤めている女たちには独特の、不思議な本能がある。こうした水商売の女たちの心の中には、哀しい女の本能を、もつともむき出しにしている。
 だから、すがる亭主や旦那のない女たち、ことに成熟した二十四、五歳以上の商売女は、搾りとれるだけ搾りとつてしまうまでは絶対に、女から離れないヒモ的な男をもつている女が意外に多いのである。
 銀座の高級キャバレー「サンチヤゴ」の春代は、その哀愁をたゞよわせた梨花のように楚々とした美貌のおかげで、指名してくれる馴染みの客も多く、収入の点も百人近い女給の中で、五本の指以下に落ちる事はなかつた。
 春代には、朋輩の女給に、手ばなしで、のろけたりする程、ぞつこん惚れこんだ益田と云うまだ芽の出ぬ貧乏画家の亭主があつた。
 彼女は夫の画才を伸ばすことに献身的な努力をすることに人生の生き甲斐を感じて、そんな自分を自ら幸福な女と信じ込んでいた。その点、彼女はロマンチックな、女らしい女のもつとも典型的な例と云えよう。が、畏敬の感情は、彼女にあの水商売女の無茶苦茶に甘えてみたいと云う欲求をいれてくれなかつた。彼女は夫に対して、いつも奉仕の側に廻らなければならなかったのが、喰い足りないいらだたしさを常に感じているのだつた。
 夫の益田は、芸術家が共通に持つ我が儘さと、彼女のひそかな願いを無視して、逆に自分から彼女に甘えかかつていくことだけしか考えようとしない男だつた。こうした二人の気持の食い違いから、いつしか春代が別に、ボクサー上りの男を選んで、ヒモにしたのは、彼女にとつては肉体的には単なる享楽にすぎないのであつた。いつてみれば、春代は夫の益田が体の調子が悪く女の生理の欲求に応じてくれなかつたためではなかつた。またボクサー上りの男の頑健な持久力を欲しかつたわけでもない。ただ甘える甘える事の出来る、自分の云いなりになる、ヒモ的な存在の男がどうしても欲しかつたのである。

     〇

 春代がいつも午後五時に店へ出勤すると、流石に人気者のダンサーだけあつて、五分と体のくことはほとんど無かつたが、この一ケ月前からと云うものは、何時の間にかフイと姿を消して仕舞い、何処で何をして居たのか二時間近くももどつて来ないような夜があつた。それが三日に一度位の割で必ずあつた。
「サンチヤゴ」はこう云う店にしては割合に几帳面な店だつたので、マネジヤーはそれとなく春代の挙動に気を配つていた。いつかそれとなく注意位はして置いた方が良いと思つていたが、売れつ子でもあり、亭主のことをいろいろ耳にしているだけに(十日や半月の女給生活じやないから、まさか……)
 とも思えるし、また事実、今まで客ととかくの噂など一度だつて聞いた事はなかつたから、つい言いそびれてしまつていた。
 しかし、それだけに春代を見ていると、崩れたら際限のないような脆さを感じた。マネジヤーの勘は、今度はたしかに誰かと出来たな? と睨んだ。
 そのうち、とある夜のこと――
 例のように控えの間に入り、ドレスの上からコートを引つかけると、裏口からフイと店を後にした春代のあとを尾けたマネジヤーは、銀座四丁目の服部時計店の前で春代が、広い肩幅を派手なグリーンのダブルにつゝんだやくざ風の男に、人目をはゞかるような合図をしたかと思うと、そのまま、ブラブラと三原橋の方へ歩いて行く彼女を見送つた。男は春代の五メートルほど後をズボンに手をつゝこみ、咥え煙草をしながらついて行く。
「あツ、いけない。とんでもない男に引つかゝつたものだ」
 
 
 
 
〜〜『いろつばき〜性の秘本セレクション7〜
』(作者不詳 監修・小宮 卓)〜〜
 
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