高 竜也 芙蓉の情炎
目 次
第一章 目覚める淑女
第二章 新 世 界
第三章 凌辱願望
第四章 最後のひと突き
第五章 濡れた秘め事
第六章 過去の人
第七章 花 蜜
第八章 快楽重ね
第九章 愛の終止符
(C)Tatsuya Kou
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第一章 目覚める淑女
1
健介が浴室から出てくるのを、スツールに腰掛けていた貴船美花は目の前の大きな姿見の中に捉えていた。
バスローブを羽織った健介はギョッとしたように立ち止まり、まばたき一つせずに鏡の中で美花と視線を合わせると微笑んでみせたが、どこか無理をしているようでぎこちなかった。
「ルール違反よ。あなたも私のように素っ裸になりなさいな」
美花はそう言うとゆっくりと健介の方へ向き直った。
百六十八センチ、四十九キロ、Dカップ裸身は三十三歳とは思えない輝きを放っているだけでなく、若い女たちにはない艶と色っぽさを漂わせていた。
健介は喉仏を大きく上下させて唾を飲み込むと、気圧されたようにノロノロとバスローブを脱いで足元に落とし、前を両手で押さえるように隠した。
「駄目。男でしょ。私のように自然体で」
スツールから立った美花は、淡い恥毛に彩られたふくらみをむしろ見せつけるようにしながら、ゆっくりと健介に近づいた。
時折、テレビに出演したり、女性週刊誌などに取り上げられたりしている若いカリスマ美容師だったが、すでにこの時点で相手に主導権があることを認めていた。
美花の放つ摩訶不思議なオーラを全身に浴びると、まるで強力な起重機のように、男のシンボルがむくっと頭をもたげ、美花がすぐ目の前にやって来た時には、獲物を狙う蛇の鎌首のように著しく勃起していた。
「まあ……もう臨戦態勢ってわけ」
「社長さんが、余りにも魅力的だから……」
美花は小さく笑った。嬉しかったからではない。
カリスマ美容師などとちやほやされるのをいいことに、客の女たちと片っ端から寝ているであろう男の、平凡なお世辞を嗤ったのである。
(林千里もこんなチャチな褒め言葉にうつつを抜かしているのかしら……)
ふっと千里の顔を思い出しながら闘志をかきたてた。
故郷の中学・高校のクラスメートだった千里は、有力者の娘であるのをいいことに、貧しいが男の子にもてる美花に辛く当たった。
千里の容赦のない苛めは、千里の父の経営するホテルで働く母にまで及んだのである。
美花が故郷を捨てて上京したのは、そんな苛めから逃れるためといっても過言ではない。
それが十数年経た、つい一カ月ほど前、銀座通りでバッタリ出会ったのだ。
父の財力をバックに美容院経営に乗り出した千里は今では幾つものチェーン店を経営する有名人になっていて、その店で働いていたのが瀬波健介だった。健介を千里の性の奴隷と見抜いた美花は策を弄して健介を誘い、それに成功したのだが、今ではそれが可能な財力を備えていた。
「あなた、千里さんとはどんなセックスをするの?」
美花のストレートな質問に、健介は口ごもりながら、
「あの方は雇い主です。ぼくはそんなこと、とても……」
「そんなこと、どっちでもいいの、とにかく千里さんにサービスする以上のことをしてもらうわ。そう、さっき渡した二十万円分のサービスよ」
美花はホテルに入る前のバーで飲んだ時、「何かの足しにして」と言って二十万のキャッシュを渡している。
カリスマ美容師などともてはやされていても健介は千里の店の使用人に過ぎないから、月給以外に貰う〈ベッド手当て〉など、恐らく微々たるものだろう。
一晩の付き合いで二十万の臨時収入は、若い健介にとって相当価値がある筈である。
「それにしても……スリムな身体なのにここだけは並はずれて立派ねェ」
美花はしゃがみ込むと、目の高さで打ち震えている肉茎を凝視した。
健介に対して、すべての言動でリーダーシップを握っているように振る舞っていたが、実際には、初めてセックスに直面した娘のように緊張していた。
健介にそのことを悟られまいと、かなり無理をして体裁を繕っていたのだが、それも当然である。
現在、信州にあるサナトリウムで療養中の夫剛志と肌を合わせたのは、もう一年も前のことである。
売れっ子の男女俳優や、時流にうまく乗ったお笑い芸人を抱えた芸能プロダクションを経営している剛志は、生来の美食暴飲が祟って四十代後半から糖尿病を患い、二十以上も歳の違う美花と結婚したから、セックスはままならなかった。 |