官能小説販売サイト 一条きらら 『蜜の戯れ』
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一条きらら   蜜の戯れ

目 次
貪欲な肌
秘められた欲望
悶絶グルメ夫人
秘めた痴態
義父の舌
熱く悶えて

(C)Kirara Ichijo

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   貪欲な肌

     1

 同じ方向だから送って行くよと、営業部長の佐伯孝之が、千絵美の肩に軽く手を置いた。
 同僚社員たちと一緒に、タクシーを拾える通りに歩いて来た時である。
「はい」
 と千絵美は答えて、チラッと佐伯部長の横顔に眼をやった。
 社員の送別会があった夜である。結婚前から勤めている化学薬品会社の、営業部に千絵美も所属している。直属の上司の営業課長は、用があるらしく宴会の前半で中座した。
 佐伯部長とは同じフロアだが、ふだん、言葉を交わすことは、めったになかった。
(あたしが練馬区に住んでるってこと、部長は憶えてたんだわ)
 昨年、佐伯部長と一緒に数人でタクシーに乗ったことがあった。その時も宴会の帰りだった。
 今夜は、千絵美と二人きりでタクシーに乗り、送ってくれるつもりらしい。アルコールが入っている夜に、男が女をタクシーで送るというのは、半ば下心がある行為――と今までの経験で千絵美はわかっていた。
 それで、チラッと佐伯の横顔に眼をやって、
(あまり胸のときめく相手じゃないけど……)
 小さな失望とともに、胸の中でそう呟いた。佐伯部長は四十半ばだが、薄い頭髪や老けた顔立ちのせいで五十代に見える。肥満気味体型でスタイルも良くなかった。雰囲気だけは、知的な中年紳士という感じである。
 空車のタクシーが来て停まり、佐伯部長がドアに近づいた。さあ、というように千絵美を先に乗せようとする。
(先に降りるあたしのほうが、あとから乗ったほうがいいのに……)
 そう思ったが、千絵美は先にタクシーに乗り込んだ。
「部長、それでは失礼します」
 数人の社員が寄って来て佐伯部長に挨拶の声をかける。ついでにという感じに、千絵美をいちべつする。何となく、意味ありげな視線もあるが、千絵美は気にならなかった。アルコールが入っているせいである。
 酔うと千絵美は陽気になるタイプだった。ふだんはおとなしく、控えめで、しとやかな女に見られる。アルコールが入ると、色っぽい眼と笑い方で男に対して積極的になり、しなだれかかるようなしぐさをすることもある。
 特に美人というわけではないが、男たちからチヤホヤされてモテるタイプの千絵美に、しっと反感を持つ同僚OLから、
「彼女って、しとやか・ブリっ子なのよ」
 そんな陰口をたたかれていた。酔うと地が出て、男に飢えてる淫乱女みたい――と言っていたと別の同僚OLから聞かされていた。
『しとやか・ブリっ子』なんて、失礼しちゃうと思うけれど、
(当たってなくもないかも……)
 内心、そう思っていた。そんな陰口や批判は同性だけで、男たちはしなかった。女に対する女の眼と、男の眼は違うものだった。
 今夜も千絵美は酔っているせいで、陽気になっているから、下心のありそうな佐伯部長を警戒するどころか、
(ちょっと、からかっちゃおうかしら)
 そんないたずらごころが起こった。
 運転手に行き先を告げた佐伯が、両足を開いて右脚を千絵美の左脚に触れさせた。
 信号待ちでタクシーが停まった時、千絵美は腕時計に眼をやり、
「あら、まだ、こんな時間……」
 陽気な口調でそう呟いた。佐伯部長をからかってみようという悪戯心のせいである。佐伯がそれを、聞き逃さないはずはなかった。
「ちょっとどこかで、飲み直して行こうか」
 佐伯が千絵美の手を、軽く握って言った。
「でも……」
 千絵美は、声に恥じらいを含ませて答える。
「ご主人が怒るかな、奥さんのきみがあまり遅く帰ると」
「そんなことありません。だって主人は会社をリストラされてから、無口になって、あたしとほとんど口きかないんですもの」
「えッ、ご主人、リストラされたのかい?」
 
 
 
 
〜〜『蜜の戯れ』(一条きらら)〜〜
 
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