官能小説販売サイト 川本耕次 『オトナのお遊戯』
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川本耕次    オトナのお遊戯

目 次
アブない清純派
エスケープ・ゾーン
オトナのお遊戯
制 服
ファッキング・パパ
ハッピーこぶ巻きニューイヤー
少女の棲む部屋
やっぱりアレが好きッ

(C)Kouji Kawamoto

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   アブない清純派

「不良にならなくちゃイケないの。だから」
 コップの水をゴクンと飲みほして、女の子は言った。
 猫っ毛というんだろう、すごく柔らかくってしなやかな髪の毛。
 茶色いベルベットのリボンで結んで、セーラー服によく似合っていた。
 育ちの良さがにじみ出ているような、ととのった顔立ち。学校帰りの中学生だもの、化粧っけはない。でも、唇なんて艶やかに赤くて、じゅうぶんに可愛い。
 それに、幼さのなかにも、育ちつつある色気……とでも形容したらいいのかな、どこか男心をそそる媚びを含んだ視線。
 まるでデビューしたてのアイドル・タレントみたいな新鮮な美少女だ。
 こんな眼でジッと見られて、不良になりたいなんて言われたら、正直、困ってしまう。
「でも、パパが浮気してるからって、キミまで不良になることないだろ?」
「パパだけじゃないわ、ママだって。このごろ毎晩飲みに行くのよお。アタシ、知ってるもの。どこかの男のヒトとホテルに行ったりするの。はじめて会ったばかりのヒトとよ、信じられるう?」
 誰にも相談できなくって、ひとりで悩んでいたんだろう。
 その少女は大きな瞳をクルクルと動かしてしゃべりまくった。
 両親の不和、ってヤツだ。
 モンダイのパパってのがまんざら知らない相手じゃない。
 儲かってる中小企業の経営者が浮気するなんて、珍しいことじゃない。まして、それをきっかけにその女房が発情するなんて、もっとありふれた話だ。
 けど、こちとら、しがない営業マン。安月給でこき使われて結婚もできない。その社長ってのが問題の『パパ』なんだから。
 うっかりした対応、できないのだ。
「まっ、不良になるのもいいけどさ。でも喫茶店でコーヒー飲んだくらいじゃ不良にはなれないぜ」
「だって、禁止されてるのよ、こういう場所に来ること。マクドナルドやミスター・ドーナッツは許されてるんだけど、さ。校則破ってるんだもの、立派に不良行為だわ」
「う〜ん、理屈じゃたしかにそうなんだろうけど」
 笑ってしまったら可哀そうだ。
 けど、思わず笑ってしまった。こんな安サラリーマンがサボりに来るようなボロい喫茶店で不良になんかなれるもんか。
「なによ、何がおかしいの?」
 真剣に問いつめる少女に、そのあたり説明してやった。
「せめてディスコに出入りするとかしないとなあ。不良にはなれないぜ」
 ……営業まわりの戻り道。まっすぐ戻ったら伝票の整理くらいしなきゃならない。けど、ここでサボって行けば、うまいこと終業時刻ぴったりに帰社できる。
 いつもの癖で、ふらっと店に入ったのだ。
 いきなり社長の娘がこちらを見たのには、焦った。
 てっきり社長もいるんだと思ったのだ。この、森沢かおるちゃん、ときどき社長のところにおこずかいのおねだりに来るから。
 けど、焦ったのは向こうも同じだったらしい。見つかっちゃった……なんてふうな、バツの悪い表情だった。
 わけを聞いてみれば、そういうこと。
 なんだか奇妙な人生相談になってしまった。
「ディスコねえ。……そういえば昔、ディスコに行ったのバレて退学になった娘がいたらしいわ。それ、いいかもしんない」
 しばらく黙っていた薫子ちゃん、反省してくれてるのかな? と思ったらとんでもない。アブないコトを口にしはじめる。
「ディスコに行って、ゆきずりのヒトに誘われてホテルとか行っちゃってさ、ニンシンしたりしたら、もうしぶんないわ」
「おいおい」
 そそのかしたなんて思われたら困る。
「そんなコトしても何も得にはならないだろ? バカだなあ」
「そうよ、バカなコトするの。もうアタシたち一家はメチャクチャなんだもの」
 きっぱり吐き捨てる。
「今から行こ。ねっ、ディスコってどこにあるの?」
 まだ陽も沈んでないのに営業してるディスコなんて、あるわけない。ましてセーラー服で入れるわけもないし、やっぱりこの娘、とんでもない世間知らずなのだった。

「胸がドキドキしちゃう。……だって、こんな夜遊びなんて初めて」
 せいいっぱい大人ぶって、ボディコン。
 といっても、真面目な中学生の女の子がボディコン・ミニのワンピなんて持ってるわけ、ない。
 ママのを借りてきたんだと笑う。
 こっちもBMWは借り物だし、ディスコなんて去年の忘年会の流れで行って以来。
「門限、七時なのよお、信じられる?」
 しかも、その門限さえ破ったことがないという薫子ちゃん。けど、今夜だけは別だ。彼女がはじめて『不良』になる夜だから、ね。ディスコに繰りこむ時刻は午後十一時過ぎ。運悪く、いつもは浮気に忙しいご両親さまは、双方ともにご在宅だという。
「バレたらどうしよ。ねっ、ねっ、心臓が破裂しそう」
 まさかさわって確かめるわけにも行かないけど、思春期の胸の膨らみがルームライトに浮かんでいる。
「夜遊びくらいで、そんなにビビってどうするんだ? まして保護者つきじゃないか」
 考えてみれば……というか、考えるまでもなくこちらはマズい立場にいるわけで、せめて保護者をしなきゃならない。
「ふ〜ん、だ。……いいオトコがいたら、ついてっちゃうんだからね」
「おいおい、あんまり困らせるなよ。今夜のことがバレただけでも、オレ、くびになっちゃう」
「じゃあ、いいわ。オジサンについてっちゃう。抱いてくれるんでしょ?」
 言葉は大胆だけど、それは生まれて初めての夜遊びに昂奮して口走っているだけの、子供っぽいセリフに過ぎないのは明らかだ。
「そんなコト言ってると、ホントに犯しちゃうぞ」
 まんざら嘘でもなく、……無邪気にはしゃいでいるだけだとわかっていても、妙な気分になってくる。脅かしてやると『はあい』と素直に黙りこくった。
 あたかも、金曜の夜。
 というわけでディスコは満員だった。
 ほとんどが女だけの客。東京のディスコはどうだか知らない。けど、ここらは田舎だ。男の子はむしろ車に夢中で、ディスコなんかに来ない。
「お酒、飲んでもいい? パパの晩酌につきあってるのよ。けっこう強いんだから」
 初心者っぽくキョトキョト周囲を観察したあげく、しなだれかかってくる。
 そのくせもう、頬は紅色に上気してたりして。
 ディスコの客の九割を占める、女だけのグループ。目的はもちろん男漁りだろう。でも男の客がほとんどいないんだから、話にならない。
 ジトッと羨望のまなざしが、こちらに注がれた。
 あんまり薫子ちゃんがくっつき過ぎるせいだ。盛りがついた女どもに睨まれて、でも、ウブな少女はむしろ有頂天。
「アベックなの、アタシたちだけね」
 いくら誘っても踊りに立たないくせに。似合わないボディコンでぴったり寄りそって、……それはなんだか、自分の娘に甘えられてるような複雑な気分だった。
 それから、少しだけ踊った。
 薫子ちゃんはすっかりフラフラになってしまった。
 やめろと言ってるのに、飲んだせいだ。
 ボーッとして、それからはずっと、眺めているだけ。でも楽しそうで、まあ、良かった良かった、というわけ。
「そろそろ帰ろうか」
 眠そうな薫子ちゃんだ。
 いつもだったら、とっくに寝ている時刻。
「やだ」
 しょぼしょぼする眼をこすりながら、少女は言うのだ。
「いいオトコ、いないんだもん。閉店までいるんだもん」
 免疫のできていない女の子にとって、ディスコに来るというだけでも大冒険。すっかり雰囲気に呑まれている。
「ねっ、いい娘だからさ。帰ろうよ」
 
 
 
 
〜〜『オトナのお遊戯』(川本耕次)〜〜
 
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