官能小説販売サイト 北原双治 『淑やかな女獣』
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北原双治    しとやかなじゅう

目 次
しとやかなじゅう
真昼の淫蕩図
黒淫の透視図
情事の旋律
愛奴共棲
秘密の遊戯者
したたかな交尾
夜来
魔淫の刻限

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   しとやかなじゅう

     1

 受話器から響いた男の声に、落胆する。
 終業間際の電話であり、もしや浩美からではと、内林政明は期待していたのだ。彼女と別れて、半月になる。自ら追い出した相手ではあるが、どこかに未練が残っていた。そして、親密だった当時、決まって彼女はその時間に電話してきたのだ。
 ――調子はどうだ。突然で悪いんだが、今夜会えないか。
 いつものぞんざいな口調で、石見俊樹が言う。
 大学の同級生で、旅行同好会で一緒だった男だ。
 ――なんだよ、急に。……
 ――笹尾のこと、覚えてるだろう。奴のことで、話を訊きたいって人物が現れたんだ。
 ――サークルの笹尾か、あいつブラジルから帰って来たのか。
 ――いや、まだ向こうにいる。それで、貿易会社の社長が、笹尾のことを知りたいらしいんだ。ブラジルで奴と知り合ったらしいんだが、確かな男かどうかおれたちに話を訊きたいって連絡してきた。それによって、奴と取引するかどうか判断したいらしい。奴のために、旨く話してやって欲しいんだ。
 経緯はともかく、笹尾敏信に対する推薦の弁を唱えて欲しいという、意味だろう。
 やはり、一緒のサークルで大学時代を送った男だが、それほど親しい間柄ではない。いや、あまり好感を抱いてなかったというべきだろう。自信過剰というか、常にリーダーシップを取りたがる癖があり、控え目な彼とは正反対な男だ。
 ――あいつ、なんか事業を始めたのか。
 ――そうらしい、詳しくはおれも聞いてないんだが……来られるんだろう。六時に、池袋駅の北口で、どうだ。
 例の口調で、一方的に石見が言う。
 彼よりも、笹尾とウマがあってた男だ。いずれにしても、かつての仲間が事業を興そうとしており、間接的ながら援助を求めてきたのだ。しかも、地球の裏側からであり、気乗りしなかったが、応諾するしかなかった。
〈ま、いいか。帰ったってやることがないんだからな〉
 自身に言い聞かせるように呟き、内林は受話器を戻した。
 綿井浩美と同棲していた当時ならまだしも、帰宅しても彼女が残していった熱帯魚を眺め、ぼんやり蜜月の頃を懐かしむ、そして、後悔するといった状況でしかない。
 二人が別れた理由は、彼女の浮気だった。
 発覚したのは食品会社に勤務する彼が、飲み会での帰途に新宿駅で黒のセーターを着た男を、目撃したことによる。袖に、紫色のステッチが入ったセーターだ。彼がデパートのバーゲンで入手したセーターと同じもので、それを着ていた若い男に妙な親近感を覚えながら帰宅し、セーターを引っ張りだそうと箪笥を探したが、見当たらない。それで、浩美に問い詰めると、あっさり男に貸したことを認めたのだ。
 彼女が勤務しているスーパーのバイト学生で、雨に濡れ、寒がっていたので貸してやったと、言う。さらに、執拗に追及すると、部屋に入れ関係をもったと告白する。そして、成り行きで、そうなってしまった。一回切りの過ちだから許して欲しいと、泣きながら詫びる浩美を、彼は容赦なく叩き出したのだ。
 そんな経緯があり、三年続いた浩美との同棲生活を、一方的に解消したばかりだった。
 そして、虚しい日々を送りながら、彼女からの連絡を待っていた矢先に、石見からの電話が入ったのだ。
 笹尾の推薦の弁など気が進まなかったが、彼女の居ない部屋へ帰る憂鬱さを考えると、まだ気が紛れるとおもった。
 池袋へ着くと、小雨が降っていた。
 ブルゾンの襟を立てた石見が、しっかりやってくれとばかり、握手を求めてくる。彼と会うのも、半年ぶりだ。
「傘を、持ってないのか」
「すぐ近くだから、平気だろう。彼女とは、旨くやってるのか」
 不機嫌そうに訊いた彼へ、石見が愛想笑いを浮かべて言い、歩きだす。
「まあな、……籍を入れてないから、独身と変わりないよ」
「いいよな。おれも、同棲相手が欲しいぜ」
 独身を謳歌している男で、女にも不自由していない。
 そんな相手に、弱味を見せるわけにはいかないとおもい、あえて内林は嘘を言った。
「笹尾から、連絡がきたのか」
 卒業してから六年になるが、一度も会っていない。
 旅行社に就職し、添乗員として南米に出向いていると聞いていた。そのあと、ブラジルに滞在し、現地でガイドをしているという、話だった。
「いや、貿易商の人が直に、おれのところへ電話してきた。笹尾に、聞いたってな。忙しい人で、な。奴のことを知っている人物を、数人紹介して欲しいっていわれたけど、緊急すぎるよ。お前しか連絡がとれなかった」
「笹尾の奴、なんかやらかしたのと違うか。なんで、おれたちに……」
「そんなことないだろう。純粋に、奴の人物像を知りたいだけだって、言ってたからな。おれも突然なんで驚いたが、笹尾に恩を売っておくのも悪くないぜ。奴の事業が成功したら、……そこだ。ともかく、奴のことを褒めてやってくれ」
 アーケード街の手前に来て、石見がビルの入口へ彼を促す。
 五〜六階建てだろう、隙間家具のような細いビルで、しかも薄汚れている。
 看板も出ていないビルを見上げ、嫌な予感を覚えた。
 
 
 
 
〜〜『淑やかな女獣』(北原双治)〜〜
 
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