官能小説販売サイト 藤井智憲 『さよなら、『洗濯屋ケンちゃん』日本初の本番ビデオの監督の告白』
おとなの本屋・さん


藤井智憲    さよなら、『洗濯屋ケンちゃん』日本初の本番ビデオの監督の告白

目 次
(1)俺の奥方を脱がせたかった!
(2)本番は真剣にヤリマス
(3)ブタバコで〃粋な別れ〃を

(C)Tomonori Fujii

◎ご注意
本作品の全部または一部を無断で複製、転載、改竄、公衆送信すること、および有償無償にかかわらず、本データを第三者に譲渡することを禁じます。
個人利用の目的以外での複製等の違法行為、もしくは第三者へ譲渡をしますと著作権法、その他関連法によって処罰されます。


 (1)俺の奥方を脱がせたかった!

 キャメラマンの松川から、喫茶店で、撮影の終わった台本をチェックしている時にAV『洗濯屋ケンちゃん』の話があった。
 その頃のAVはまだAVとは言わず、裸のビデオとか言っていたと思う。それに本番は表向きナシ。そこへ改めて、「本番もの撮ってみませんか、監督」の声がかかったのだ。
 恐らく、俺が以前から、嘘っぽいよなあ、裸で絡まってるのに声も動きも芝居も――という言葉を吐いていたことがキャメラマンの頭の片隅にでも引っかけていたのだろう。
「ああ、いいよ」の一言でキャメラマン松川がプロデューサーの出口氏を紹介してくれた。
 じゅうそう交差点近くの出口氏の事務所下の喫茶店の片隅であったと記憶している。
 記憶が曖昧なのは、その当時、生意気にも小説を書いたり、イベントの企画、それもインド音楽のシタールなどに凝っていたもんだから、頭の中は音と物語が氾濫していて、どこの喫茶店で人に会ってもコーヒーと相手の顔、いや表情しか見ていなかったからだ。
 また話の内容も、興味のある事柄か、イイヒトかだけを、それも気分的な判断まかせで時を過ごしていたのだ。
 夢想の中では、自分の妻、通称・奥方を使った方が、勘どころが鮮明なのと、彼女の女優としてのミセの部分に魅力を感じていたので、芝居共々、写し撮りたいとは思っていた。(注:藤井夫人は劇団女優・日野麗)
 そのストーリーも頭の中には確かにあった。その事を彼女にも寝物語にしていた記憶がある。
 ケンちゃんの何年後かに『性芯異常者・38歳の挑戦』というビデオによって遂に夢を実現した。
 所謂、人妻、熟女物ビデオの走りになるわけだ。
 話は元に戻って、翌々日から、その出口氏と仕事に取りかかった。
 出口氏の事は、キャメラマンの口から聞くまでもなく、TVの可愛い魔女風お子様物語『コメットさん』の監督である事は知っていた。
 俺自身が一時、その番組の可憐な主演女優のファンだったから一回も欠かさず見ていたのだ。
 出口氏から出たのは、婆さんを犯す話だ。西鶴風に言えば好色五人女的な回想男、遍歴物語なので俺は即座にノー。
 だからと言って西鶴が嫌いな訳じゃなく、むしろ大のファンで何時か撮ってやろうと思っていた程だったのだが、この時は何故か、違った。この直感がノーと言わせたのだった。
 別なアイデアが出口氏からコロコロと出て来た。が、俺はそれらにノラナイ。
 それで、その日は一応お別れしようということになり、何か浮かんだら電話で連絡しあいましょうという事で、初めてここで名刺交換をしたように思う。
 というのも、このケンちゃんに関して、のちに出口氏が出所後、どこかの出版社から経緯等を書下ろしで出版しているらしいのだが、俺は、それに眼を通していないし、出口氏から本を送られた記憶もない。
 だから俺の記憶は記憶であるけど、先の通りの按配だったので、そこの詳しい日取りや時間や場所等は妙にボヤケテいるのだ。
 但し、アレ違う、これオモロクナイとかなり生意気に大先輩に対して言い放ったことは忘れていない。
 丁度この頃、俺は何故か所属していたプロダクションの仕事で、国際放映のロケバスの中にいた。『ケーキ屋けんちゃん』という映画で隣の叔父さん役を演じていたのだ。
 その前は東映の『怪傑ズバット』という石森章太郎原作のお子様時間帯テレビ映画に出演し、ズバットの敵役でゲストの石森先生を拉致するペット吹きの殺し屋役を面白がって演じていたりもしていたのだ。
 ついでに言えば『太陽に吠えろ』、NHKの大河ドラマ『元禄太平記』にも出演していたのである。
 出口氏からプロデューサーの名前をNHKの堀内さん、と聞いたとき、NHKのスタジオをすぐに思い出したのを覚えている。
 が、作る側の俺には、そんなこと関係ねえやと、出口氏の紹介しようかの言葉を無視して、一人でアイデアを練っていた。
 一週間後の夜だったと記憶する。
 キャメラマンから電話があり、その話中にお互いが、簡単でメリハリのあるストーリーにしよう、と合意したところで本当にポイッと御用聞きの話が浮かんできたのだ。
 で、出口氏にすぐ電話。それも『洗濯屋ケンちゃん』という具合に出演していたTV番組の題名をこっそり拝借し、明日までに簡単なストーリーを書いていきます、と言って電話を切った。
 話の中で出口氏が、じゃ私の方もそのアイデアで本を起こしてみましょうと、こよなく楽しそうに答えたかと言うとそうではない。
 このストリー殆ど、実は昔、俺が見た事、経験した事ばかりなんだ。
 だから理屈抜きで、原稿生書き、台本チェックと万事、簡単。――あとは現場処理でって事になった。
 物事がうまく行く時って、こんなふうなのだろう。
 キャメラマン氏はプロデューサーのように、殆ど毎日、電話をくれ、なにくれと進行の世話を焼いたうえ、キャスティングの件も知り合いだとかいう矢島という男を連れて来た。
 彼、今でいうスカウトマンだけど、その時は嘘か誠か炎の軟派氏と異名をとっていた。
 それも俺には関係ない。
 色々人が集まってくるので、後に騒がれる裏ビデオの云々ってな雰囲気で、俺はまるで感じず、むしろ出口氏、キャメラマン、それにどういう知り合いか知らぬが、キャメラマンが連れてきた白井とかいう紳士の口から飛び出す、これはアメリカでも売るから、しっかり撮ってもらわなければ、云々という言葉に耳を傾けた。この言葉から脳天気な俺は、確認もせず、本番堂々とヤルのは本場のアメリカの市場に出すからなのかあ――と一人合点し、こりゃ芝居が出来、且つ、堂々と、セックス出来る奴で、テクがある奴がいないとグチャになるぜえ、とこう思った。
 途端に新劇仲間の役者達数人の顔と俺の奥方の顔とを思い浮かべた。
 俺、今はないけど現代演劇協会の『雲』っていう劇団にもいた。
 その仲間たちとは別に芝居仲間を募っては俗に言うアングラ、または当時の小劇場運動などしていて演出と芝居台本を書き散らしてもいた。
 その仲間の一人を絞りこみ、久野一之ことクノチンを説得にかかった。
 集まった中、女に関しては矢島氏のようなエキスパートがいても、俺の欲求に答えうる男がスタッフ一同、皆目見当がつかないという話である。
 まさかその中に俺の奥方の話をのこのこ出すわけにもいかず、女のキャスティングは矢島氏、白井氏及びキャメラマンに託して、まずは台本を仕上げようって言う事になり、その間、俺は簡単な割り振り、つまり外アオカンとか体位を考え、絵コンテにしたりしながら、今までにない絵作りの具体案を絞って構成に取りかかった。
 俺の奥方をもっと詳しく紹介すると、ビデオでの名前は日野うららという。
 麗と書いて、〃うらら〃と読ませる。
 学生時代から芝居をやって、学習院大学を卒業すると同時に、アングラ劇団の『黒テント』に女優で参加していた。
 この『ケンちゃん』の時は、もう子供も生まれていたので芝居からは遠のいてはいたが、俺を〃芝居の同志よ〃と呼ぶヤツだから一応こんな話をしたことを報告しておこう。
 撮影で久野君と絡んで、ホントウニソウニュウ――つまりヤル気はないのかどうか、と聞いてみたのだ。
 彼女がそんな話で驚くようなタマじゃないことは知っていたけど、よく知っている芝居仲間の、というより好意を持って接している俺の芝居仲間だと認識していたので、ちと考えちゃうなあと思案顔の返事だった。
 無理押ししないでと思っているうちに、時が過ぎた。
 早速、翌日のこと、出口氏と二人で会って、台本を検討しあい、およそ合意したところで、それをまとめてタイプ印刷し、明後日渡すということになり、まずはスタート位置に着くことが出来た。
 その足で久野をつかまえ、「前記のようにアメリカにも発売する本番ポルノだ。芝居が必要なんじゃ、手伝えよ」と説得する。
 その中に、二人で芝居の公演費用を捻出し、新しい劇団を設立しようという構想もあった。
 久野は、むしろそっちの劇団公演費及び設立の方に、より興味を示した。
 根っから芝居が好きな好漢である。
 久野から内諾を得て、それを出口氏が白井氏に電話したところ、矢島氏からも女の子を調達出来たので、スタッフと一度顔合わせをさせたいと言ってきたそうだ。とんとん拍子に展開し、出口氏が知り合いだという新宿の飲み屋の二階に場所も決まった。
 その日までにキャメラマン、助監督のナベちゃんは台本読んでロケ現場の見当をつけておくといった按配のまあ凄いフルスピードの進行ぶりである。
 さて、当日が訪れた。二階の六畳程の部屋の中の様子は――。
 出口氏他、主立ったスタッフが集まり、酒酌み交わし合い、しばしの歓談がつづいた。
 奥さん役の彼女は言葉少なに、ガラスのぐい呑で啜るように飲む。いや、舐めるか。
 言ってみれば小さな映画の製作集団の気持ちいい仲間の集いって感じだ。
 久野は少しバイトの都合で遅れて到着し、すぐ姿を消してしまった。
 芝居公演の資金をバイトで捻り出しているのだ。頭が下がる。
 その姿を消す前に、「アメリカで発売するからッ」と俺は言って、出口氏以下、皆にも「そうだよなあ」と同意を得るような聞きかたをした。
 セリフをどうするのか、日本語だけでいいのか、それだとしたらテロップいれるのかとか、色々とある訳だ。
 それは出口氏、大本のプロデューサーの堀内さんに任せて、「監督は黙って構成だけ見ていてよ」と、キャメラマンから酒を注がれながら言われ、溢れた酒に唇を突き出し、啜り飲みながら、「そう、じゃねッ」と声に出さず頭をコクンとやった。
 それを汐に元気よく久野、お疲れさまっとスタッフに声をかけヨロシクゥと狭い階段を駈け降り新宿の夜のネオンの間に軽快に姿を消した。
 ――と、すれ違いに、役で言えば、ケンちゃんの親友・良ちゃんの彼女が、白いロングスカートで眠そうな眼をして現れた。
 それを歓迎するように、矢島氏が拍手で迎え、その拍手に合わせるように皆が手を叩き、彼女の席を尻をずらせて空ける。
 座布団を、さあこちらとばかりに素早く空いたところに滑り込ませたのは白井氏だったと思う。
 そんなへんな細部ばかりが絵になって、頭の片隅に残っているのだ。
 が、それが現実だったのかどうかは、今現在、定かじゃない。
 この頃、違う芝居の一部だったりして、ギョッとなる事がある。
 ボケかいなあ。
 そんな年じゃあるまいし。
 けど、頭ん中で色んな場面を妄想し、勿論その一部は脚本に書いている。
 が、日の目を見る事ないので、時折重複する場面がある。
 それはまあいいとして、一応、彼女が現れたってんで何度めかの乾杯をさした。
 ところが、このポニーテールを結った女の子、グイ飲みでコップ酒ときた。
 矢島氏、スタッフ全員からオーケーが出たので安心したのか、私は飲めませんと言いながらもさされると受けて、たちまち顔面真っ赤になった。
 俺は壁に背を持たせたまま、本番オーケーですね、と奥様役の女の子とポニーテールに念を押すのを忘れない。
 気になったのは二人とも無口だったことだ。
 笑顔をすれど、気持ちがそれについてこないって風である。
 まあ初めての事なので緊張しているのだろう、とこれまた勝手な思い込みから、気をむしろ、芝居の方へ持っていこうとする。
 矢島氏も苛立った様子で、
「彼女達はねえ、芝居やりたいってんで呼んだんです。この分だと芝居は出来るかどうか分かりませんなッ」
 と、唇を歪め、多分笑ったのだろうけど、酔いで顔面神経が緩み、涎をダラァーリとたれ流す始末だった。
 ポニーテールの子はボソッと、「何回ヤルんですかあ、監督さん」ときたので、「都合二回やねッ」と答えた。
 
 
 
 
〜〜『さよなら、『洗濯屋ケンちゃん』日本初の本番ビデオの監督の告白』(藤井智憲)〜〜
 
*このつづきは、ブラウザの「戻る」をクリックして前ページに戻り、ご購入されてお楽しみください。
 
「藤井智憲」 作品一覧へ

(C)おとなの本屋・さん