官能小説販売サイト 山口香 『濡れ肌志願』
おとなの本屋・さん


山口 香    濡れ肌志願

目 次
第1章 仔猫の花びら
第2章 巨乳のしずく
第3章 人妻の欲情
第4章 セーラー服の天使
第5章 人形あそび
第6章 喪服未亡人の誘惑
第7章 ピンクの花園
第8章 モデルの饗宴

(C)Kaori Yamaguchi

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   第1章 仔猫の花びら

     1

 春の陽射しはさんさんと降りそそぎ、新宿の繁華街は軽装の男女が肩を触れ合わんばかりに行き交っていた。
 小伊京百貨店新宿本店の玄関口にも人々の波は押し寄せていた。
 小伊京百貨店は新宿本店をはじめ、三鷹、立川、松戸、川崎、藤沢などに店舗を持ち、従業員数も総勢六千人近くになっている。
 特に新宿本店はファッション衣料に力を入れており、衣料品四十五パーセントと、他の百貨店、デパートをしのいでいた。
 一昨年から続いている、バブル景気崩壊によるドン底の不景気。
 その低迷景気を吹きとばすように皇太子さまのご婚約。そしてご成婚の運び。
 景気回復の足掛かり。百貨店、デパート業界では待ってましたとばかりに、ブライダルフェアを開催していた。
 小伊京百貨店も例外ではなく、各支店それぞれに、二週間前から総合ブライダルフェアを開催していた。
 新宿本店では八階催し物会場で、お見合いから結婚まで、と銘打って、結婚衣裳、新婚家具、ハネムーン旅行などのあらゆる結婚に関する相談にのっていた。
 営業部第三課(外商)顧客係長の中条幹夫は、正面玄関口で待たせてあったハイヤーに中年の婦人客を乗せると、深々と頭を下げた。
 そしてハイヤーが車群の中に消えると、客の流れに乗り、ゆっくりと玄関口を入った。
「中条さん。……」
 正面U字形カウンターの中に三人の店内案内係が立っている。ワインレッドのスーツに、セーラーと呼ばれる全体につばの付いている帽子をかぶっている。その中の一人がささやくように、中条を呼んだ。
「なにか?」
 中条も声の調子を落として訊ねた。
「三階のレディスフロアで、三浦さまとおっしゃるお客さまがお待ちです」
 カウンターの近くには客がいない。中条は声を掛けた案内嬢に、
「ありがとう、きょうは化粧ののりがいいね。きっと昨夜いいことがあったんだ」
 と耳許に顔をくっつけるようにして言ってから、二階への階段に向かった。
 社員は通常、緊急の時以外はエレベーター、エスカレーターは使用出来ないことになっている。急ぐ時には各フロアの奥にある、社員用エレベーターを使用することになっていた。
 中条は二階から三階へと小走りに上がっていった。学生時代にはサッカーの選手として活躍したが、三十六歳になった彼にも、そろそろ中年の脂肪がつきそうである。
 身長一メートル七十五センチ、体重七十キロ。外見上ではまだまだ筋肉質な感じであった。
 性格は明かるすぎるくらい明かるい。脳天気に近く、悩むことがない。他人のことは後まわしにして常に自分本位でものごとを考える。その上に口から先に生まれてきたように、その場の思いつきで口から出まかせをしゃべる。まさに今風の性格だった。
 そんな彼にも一人だけ苦手がいる。彼の妻である。あそびのつもりで口説き落とし、妊娠させてしまい、あわてて籍を入れたのであった。地方地主の娘であった彼女の実家からマンションの頭金をもらったも同然に借り出してもいた。だから、口喧嘩にでもなれば、中条は負ける。口上手も、結婚した妻には通じなかった。
 小遣いもまあまあ、他のサラリーマンより多かった。その上に顧客係長という職権をうまく利用して、会社の経理からちょくちょくと接待費なるものを引き出していたものだった。まさに、その点からも要領一筋の男であった。
 そんな彼がなぜかモテる。仕事に関しては優柔不断であるが、こと女性に対しては異常なほどこまめであり、そのことに対して苦にはならなかった。別に男らしい野性的なマスクでもなく、どちらかというと平凡な顔であった。つまり女性にとっては警戒心を起こさせなく、気らくな話し相手、あそび相手であり、かゆいところに手の届く、孫の手のような男であった。
 三階のフロアは女性のにおいがプンプンしている。色とりどりの衣裳。目に入ってくるものはすべて男性の気持ちをワクワクさせてくれる。
 ランジェリーコーナーにはドキッとしそうな下着類が、所狭しと飾りたてられている。
 中条はこのコーナーに来るたびに、これまであそんできた女性たちを思い出す。そして最後に自分の妻を思い起こさせられていた。
 妻政江は三十四歳。二人の子供を生んだせいか身体全体にたるみが出ている。ブラジャーは垂れはじめた乳房の肉を持ち上げるだけのためにあるようなもの。下着は腹部の冷えを押さえるためのダブダブパンティ。
 あいつがもう少し若々しければ、誕生日に色つきブラジャーやスケスケスキャンティでもプレゼントしてやるのに。
 そう思うこともなん十度とあったことか。
(一度、店内案内係のあの娘の下着姿を見てみたいな)
 ふと、いま自分に声を掛けた娘の顔を思い出した。その瞬間、スケベごころが湧き上がり、むずがゆいものが股間をつつみこんだ。
 ワンピースコーナーに婦人客がいた。店員と立ち話をしている。
 三浦電気の社長夫人である。そのそばに紺地に細かな水玉模様を散りばめたワンピース姿の娘が立っていた。
「奥さま、いらっしゃいませ」
 中条は背後から夫人に声を掛けた。
「中条さん、先月はお世話になりました」
 夫人と娘が同時にふり返って中条に向かい合った。
 夫人は三浦圭子。五十歳前後だろうか、えんじのスーツ姿。流し目で見る表情にはどことなく男ごころをそそるものがあった。
 娘の恵理子はこの夏に結婚する。相手は代議士秘書の次男だという。そのために一週間ほど前にやってきて結婚式のための衣裳をいくつも注文していたのだった。
「きょうはまたわたしどもで……」
「ええ、家具を少しと、この子の洋服を。それでまた中条さんに届けてもらおうと思って。おいそがしいところを申し訳ありませんけど、わたしたちこれから、コンサートに行かなくてはならないので」
「わかりました。それではお品物は?」
「こちらの方におねがいしましたので……」
「そうですか、それじゃあ玄関までお送りします」
「いえ、けっこうですわ。それにわたくし、ちょっとお化粧なおしに。恵理子さん、もしもう一着ほしいものでもあれば、中条さんに見てもらったら……」
 三浦圭子はハンドバッグを抱きかかえるようにして化粧室に向かっていった。
 中条は婦人服係の店員から注文の明細表を受け取った。後で家具と一緒に手配するつもりである。
「結婚、待ちどおしいですね」
 中条は恵理子を見た。ロングヘアで色白。やや面長だが瞳の大きいクリクリした目が愛らしい。しかし先月会った時よりもどことなく打ち沈んだ感じだった。
「あのう……中条さんにご相談があるんですけど、今夜……、お時間ありませんか?」
 恵理子は顔を伏せたまま、ポツリと言った。
「相談? いいですよ。なんでも言ってください」
「ここでは……コンサートが終わったら母とわかれますので、その後に」
 喫茶店の名前を告げて、午後八時半に恵理子はそこで待っているとつぶやくように言った。

     2

 待ち合わせの喫茶店に行くと恵理子はすでに来ていた。
 中条の顔を見ると、
「どこかでお酒が飲みたいわ。ねえ、中条さん、知ってるお店に連れて行って」
 うつ向きながら上目づかいに見つめてきた。
 相談があると言ったが、少しためらいはじめたのかな?
 そう感じた中条は西新宿にある高層ホテルの最上階にあるメンバーズクラブに彼女を誘った。
 窓の外はブルーの闇に包まれている。下方には色とりどりのネオンが星を散りばめたようにキラキラと輝いていた。
 恵理子の父親は大手電気メーカーの下請ではあるが二部上場の会社の経営者である。中条にとっては、彼の顧客リストの中の五指に入る大得意客であった。
 ビールから水割り。世間話をしながらすすめると、恵理子は抵抗なしに飲んでいく。
 中条はチラチラと窓の外に視線を走らせている恵理子を見つめた。
 ワンピースの似合う娘である。ウエストをベルトでしめつけているせいか、胸のふくらみが大きくもり上がっていた。
「ああ、いい気持ち。少し酔ったみたい」
 恵理子は両手でほおから口許を包みこむようにした。
 白い肌にポーッと紅みが射している。U字形のえり許からのぞいた胸の上部が桜色にそまっていた。
(得意先の娘でなければ口説いてやるのに。それにしても純な感じの娘だ)
 中条は胸のうちでつぶやいた。
 ここ一週間余り女体に接していない。股間には男のエキスが満タンである。しげきさえ与えれば肉の棒はいつでも体積を増し、ムクッムクッと円錐形の頭を持ち上げる。
(この娘の相手がすめば、ひさしぶりにソープランドにでも行ってみるか)
 そう思いながら水割りのグラスを口に運んでいった。
「大学を卒業してすぐに結婚ですか……。いいですね。それにご主人になられる方は代議士の秘書さん。お嬢さんにはお似合いですよ」
「ええ……でも…」
 窓の外を見つめていた恵理子が中条を見つめ、その視線を下方に落とした。ひざの上においてある絹のハンカチを両手で持ち、指先をぬぐうようにする。左手の薬指には婚約指輪が光っていた。
「でもって……なにか悩みごとでもあるんですか?」
「それが、あたしこわいんです」
 恵理子はうつ向いたまま言った。ハンカチを持つ手に力が入っているのが中条にははっきりとわかった。
「こわいって? 結婚するのがこわいんですか?」
(まさか、この娘、処女では!?)
 そう思ったとたん、中条の下腹部にむずがゆいしびれが走った。
「………」
「ご両親に祝福されて、すばらしい結婚じゃないですか。だれ一人として反対する人はいないでしょう。新居だってお宅のそばに……田園調布の一等地に建設中じゃないですか」
 男性経験がないので不安なのですか?
 そうはっきり訊ねたいが、口には出ない。
「そんなことではないんです。彼だって申し分ない人ですし。いえ、あたしにはもったいないほどの人です」
「お見合いだそうですね」
「ええ……あたしには恋愛は向かないですから」
 酔いで少し緊張がほぐれたのか、恵理子の口調もなめらかになってきた。
「でも学生時代には好きな人、いたでしょう。恵理子さんほどの女性なら、きっとモテモテだったでしょうに」
 中条が冗談っぽく言ったとたん、
「中条さん、おねがいです。今夜あたしを……あたしを抱いてください」
 恵理子は急に声の調子を上げて言うと、正面から中条を見つめてきた。
 
 
 
 
〜〜『濡れ肌志願』(山口香)〜〜
 
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