二階堂修一郎 『罠にかかったエリート妻』
二階堂修一郎 罠にかかったエリート妻
目 次
第一章 美しき母は全裸に
第二章 来訪者は蛇男
第三章 挿入契約証
第四章 カエルかイクか
第五章 女体解剖検査
第六章 人妻花嫁の初夜
第七章 白と黒とミルク色
第八章 玩具から牝獣へ
(C)Shuichiro Nikaido
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第一章 美しき母は全裸に
子どもはややむずかったが、夕方にはまた迎えにくるからと、あとは母親にまかせて実家の玄関を出た。門をあとにすると小さなため息が、久しぶりに濃く塗った唇を割らないでもなかった。子どもはかわいく、あるいは自分の命よりも大切な宝物には違いなかったが、やはり子育ては疲れる。時にはヘトヘトにさえなる。しばし自分の手を離れると、里子は、さすがにホッとするのだった。
約束は午後の一時だった。
そのビデオ制作会社からの電話があったのは三日前で、声の主は、里子と子どもを撮影したいと言ってきたのである。
もちろん、唐突な申し出に、とまどい、断ったが、相手はソフトな口調のなかにも執拗だった。女性の声だったこともまた電話を切らせなかった一因かもしれないが、むしろ育ちの良さからくるひとの良さが、ついつい話を聞いてしまったといったほうがいいだろう。
(やさしい母の美しい姿か)
自分を美人だとうぬぼれたことなどないが、若い母の姿はきっと美しいとは思う。撮影のテーマは、現代の母と子の日常ということで、スタッフが三千組の中から十組ほどを選んだということだった。そういえば、何となくだれかに買い物の時など見られているという気がしないでもなかった。あれは気のせいではなかったのだ。
里子は、いそいそと改札口を抜けた。気がつくと、自然と心が弾んでしまっていたのである。
(バカねえ、あたしって。何をウキウキしてるのよ。選ばれたのは運が良かっただけよ)
ひとり小さく笑った。自分でも気づかぬうちに、日常の平凡さに疲れていたのだろう。ついうっとりと眠くなってしまうようなしあわせは、あるいは、退屈そのものであった。里子は、夫と子どもに自分の永遠をたしかに見てはいたが、ただの平安は、気の遠くなるような平凡でもあった。
(ちょうどいいストレス発散になるわね)
撮影は、何日かに分けて行われることになっていた。今日は、家で母親だけのカメラテストとスタッフの顔合わせということで、子どもを預けてきたというわけだった。少々、急ぎ足で駅から家に向かった。
「あっ」
家の前にはもうそれらしきワゴン車が止まっていて、男たちがその前でたむろしていた。
「やあ、奥さん、このたびはご無理を言いましてまことに申しわけありません」
「あ、いいえ。お待ちになりまして。さ、ど、どうぞ」
スタッフは男ばかりが四人だった。四十代後半らしき男と三十代と思われる男。それにいかにも若者らしい二十代が二人だった
(電話の女のひとはきていないのね。きっと事務関係なんだわ)
小さな門を開け、里子は玄関のカギを開けた。男たちが機材らしきものを持って続いてくる。
家は、まだ新築といってよかった。結婚して六年になるが、去年、ここに社宅から移ってきたのである。
里子は、三十一歳。夫、有元成晃は四十歳であるから、マイホーム年齢としては早くもなく遅くもなくというところだろうが、大手建設会社のエリート課長とすれば決して早いとはいえない。
もっとも、それは夫の結婚が早くなかったことにもよる。夫は、やさしい男だが、それだけに淡白なところがあった。女性より仕事のほうが好きだという感じで、お見合いの時もそんなところに惹かれたといってよかった。
「美しい。思っていた以上にお美しいですな」
四十代の男が真剣な顔で言ってきて、里子は「そんな」とポッと顔を赤らめた。
「お宅もすばらしいですなあ。やはり、ご主人のアドバイスが随所に……?」
「いいえ、うちのは営業のほうですから」
「ゼネコンですから、いまはたいへんですな」
「うちは関係ないみたいですよ」
「そうだった。ご主人の会社は談合や接待などに縁のない優良企業だ」
里子も笑うと、コーヒーとお茶菓子を置いた。
「どうぞ。何もございませんが」
「あ、これはどうも。それでこの話はご主人には」
「話してませんわ」
あとでビックリさせたほうがいいと電話で言われて、里子もそのほうがおもしろそうだと思ったのである。夫もきっと喜ぶに違いなかった。
「そうですか。それはよかった」
男は、意味深な笑いを見せながら言った。
「ご主人は同族のおひとりだから、悪くても役員、うまくすれば社長になるかもしれませんねえ」
「そんな、先のことはまだわかりませんわ」
里子は、笑って首を振ったが、それにしてもよくそこまで調べているものであった。
男がようやく名刺を差し出してきて、里子は、ギョッと目を剥いた。
「ス、スネイク、プロ?」
「そうです。蛇プロですな。では、奥さん、そろそろはじめますので脱いでください。全部ね」
「はあ?」
里子は、聞き間違いかと思ったが、男たちは皆一様にニヤニヤしているのだ。
「カメラテストをはじめますので、全部、脱いでください。パンティーもね」
「ひいっ。な、何をっ。じょ、冗談はやめてください」
そう叫んだが、決して冗談でなんかないことは、もうはっきりとわかるのだった。
だいいち、スネイクプロなどという会社名からして尋常ではない。それに、取締役プロデューサーと肩書があり、滑川夢三と印刷されているが、その名前だってとても本名とは思えない。そして、何より、住所は記されておらず電話番号だけなのだ。
「さ、奥さん、立って」
「い、いやっ」
里子は、引きつった声をあげて、四十代と三十代の正面の男たちに白目を剥いた目を向けた。
最初は、映画やテレビ関係の仕事をしているからサラリーマンらしくないのだろうと思っていた顔が、いまはヤクザっぽく見えてこないでもなかった。二十代の若い二人は、里子の驚愕の声が聞こえないかのように、カメラとビデオのセッティングに黙々ととりかかっていた。
「今日はカメラテストだけですからね。何もしませんよ」
「な、何もしないって。ど、どうしてカメラテストで服を脱ぐんですかっ」
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