官能小説販売サイト 中村嘉子 『淫らな熱い蜜』
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中村嘉子    淫らな熱い蜜

目 次
第一話 姉妹で痴女を
第二話 アブナイ感覚
第三話 淫らな白昼
第四話 エッチなキューピー
第五話 抱かれたい夜
第六話 許せない気配
第七話 クリトリス・キッス
第八話 セクシャル・ハラスメント
第九話 露出遊戯
第十話 仕返しはバックで

(C)Yoshiko Nakamura

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   第一話 姉妹で痴女を

     1

 勉強部屋は、別々に持っている。だが、家庭教師は一人なので、彼が来たとき、妹の愛が姉の涼子の部屋にやって来る。
 姉は自分の机で、妹は、小さな白木の座卓で、それぞれの問題集に取り組むのである。
「ね、センセ、ここのところなんですけどォ――」
 英語の問題集の、ちょっと難しい和文英訳にぶつかったところで、妹の愛は、ノートから顔を上げ、家庭教師の原田の方を見た。
「ん? なに?」
 机と座卓から等距離の壁際に椅子を置いて座わっていた原田は、身軽に立ち上がって愛のそばへ寄って来た。
 国立大の学生で、頭脳明晰だが、彼は単なるガリ勉ではない。なかなかのスポーツマンで、テニスも、水泳もこなす。だから、体型はヒョロヒョロやズングリではなく、細身ながら筋肉質で、カッコイイのだ。
 顔のほうも、野球の若手スター選手に似ていて、悪くない。
「ここのところなんですけどォ――」
 と、そばに座わった原田を、愛は、甘ったるい声で迎える。愛がこんな声で話しかける相手は、ほかにいない。原田がはじめてである。彼を前にすると、どういうわけか、こういう声になってしまうのだ。
「これって、過去形にしなくちゃいけないんですかァ?」
「うん、これか――」
 原田は、家庭教師以外の何者でもない顔で、問題集を覗き込んだ。
 頭がよくてスポーツマンの原田だが一つだけ、難点がある。女性に対して、かたすぎる点だ。冗談を言ったり、ふざけたりすることはあるのだが、それは姉妹を異性として見ていないからできるような性質のもので、愛には、彼が男性的な欲望にいささか欠けているように見えるのだ。
「そうだね。過去形でいいね。思ったように、英訳してごらん」
「はあい」
 愛が英訳をしはじめると、原田はもとの椅子に戻ろうとした。
「あン、だめ、センセ。もう少しそばにいて、見てて。まだ判んないとこあるんだからァ」
 原田を愛はいっそう甘えた声でひきとめた。
「そうかなあ。愛クンの英語力なら、簡単にできるんじゃないか?」
 原田が、座わりなおしながら、首を傾けた。
 愛の気持ちが、全然判っていない。どんなに甘えても、彼の反応は、家庭教師の域を出てくれないのだ。
〈もう……。イライラするゥ……。センセったら、ほんと、察しが悪いんだからァ……。普通の男だったら、女のコがこれくらい甘えれば、判るもんだわよ。あっ、俺に気があるんだなって……〉
 原田の対応に、愛はイライラしっぱなしなのだ。
 思い切って、
「センセ、好き」
 と、告白してやろうかと思う。がチャンスがないし、正直言って、勇気もない。
 原田と会えるのは、この部屋で勉強をするときだけだし、そばにはいつも姉がいる。その姉も、どうやら原田に興味をもっている様子なのである。一つ歳上のライバルの眼の前で、「好き」とまで言う勇気は、愛にはない。愛も、姉も、中学高校と名門の女子校に通っていて、男性と接したことがないのである。姉は高二、愛は高一で、ボーイフレンドの欲しい盛りなのに、無菌状態で今まで暮らしてきた。
 だから、やっと現れた原田という、唯一の異性を、どう誘っていいのか判らない。問題集を前にして甘ったれるのが、やっとなのである。
「ほら、できたじゃないか。愛クンなら、できるんだよ」
「でも、ここんとこがちょっと……。ほかの形容詞つかったほうがいいんじゃないかって……」
「これでも充分通じるさ。高一だったら、これが適当だと思うな」
 ヤボな原田はそう言って、また立ち上がりかけた。
「あっ、待って、センセ……」
 愛は、なにがなんでもひきとめようとする。
 ほかに男をその気にするテクニックがないので、やみくもに甘え、自分のそばに来させようとしてしまうのだ。
「なんだい?」
「あのね……あのね……」
 ひきとめはしたが、理由がない。愛が口ごもっていると、今まで静かに机に向かっていた姉の涼子が、急に原田を呼んだ。
「センセイ、私のほうも見てください」
「ああ、いいとも――」
 はっきりしない愛を置いて、原田は、姉の机へ歩み寄った。
 姉が、原田になにやら質問している。一つ上なので、同じ英語でも、愛にはよく判らないような内容である。
 愛も成績はいいが、涼子は、クラスで一、二の優等生なのだ。
〈……やな感じ。姉さんたら、きっと、判ってることを判んないふりして質問してるんだわ。センセにそばにいてもらいたくてさ。ほんとは姉さんなんか、家庭教師いらないのよ。頭いいんだから……。男のことなんかに興味もたないで、勉強だけせっせとしてればいいんだわ……〉
 仲のよいやりとりをしている原田と姉を見て、愛は思った。
 嫉妬である。生まれてはじめて、愛は、嫉妬していた。
〈センセがらみじゃなきゃ、姉さんは好きなんだけどさ……〉
 愛は、溜め息を吐いた。
 
 
 
 
〜〜『淫らな熱い蜜』(中村嘉子)〜〜
 
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