官能小説販売サイト 中村嘉子 『夜に燃える肌』
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中村嘉子    夜に燃える肌

目 次
第一話 危険な小事
第二話 不倫返し
第三話 赤いのあるうちに
第四話 せめて一滴…
第五話 殺されたいほど好き
第六話 昼と夜の肌
第七話 二十二歳のハラワタ
第八話 他人のシーツ
第九話 日記に無い欲望きもち

(C)Yoshiko Nakamura

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   第一話 危険な小事

     1

 ドアを開けて見ると、狭い、まるでワンルームマンションみたいなユニット式のバスルームだった。
〈よかった…〉
 麻美は、心底安堵した。別にユニット式のが好きなわけではないし、狭いのが好みというわけでもないのだが、こういう構造の浴室でないとやりにくいことが、麻美にはあるのだ。
 しかも、それは、とても大切ななのである。それをやらずして、田川とベッドインはありえない、と言い切れるほど……。
「先、シャワー浴びていい?」
 躰の半分をバスルームに入れながら、さっそくつけたテレビのチャンネル選びに熱心な田川に、麻美は言った。
「いいよ。俺もあとから入ってくかも知れないけど」
 顔にあまり似合わない派手な格子縞のジャケットの背中で、中年の田川は応えた。今の時間帯、どのチャンネルも軒並みニュース番組なので、かえって選びあぐねているらしい。
「お風呂、とっても狭いわ。ひとり入ると、いっぱいになっちゃう」
 麻美は、田川が一緒にバスを使おうという気を起こさないように、そう言って、中に入り、ドアを閉めて鍵をかけた。
 そして、小さなバスタブに、シャワーのお湯を勢いよく放って、服を脱ぎはじめた。
〈……ほんとに、よかったわ。お風呂とトイレが別だったら、十分な準備ができないもの〉
 はじめて入るラブホテルなので、バストイレの造りがどうなっているのか、まったく判らなかった。バスとトイレが一緒の可能性は何十パーセント……。一種の運試しだっただけに首尾よくユニット式を当てた嬉しさを、麻美は、密室に入ってしみじみと感じていた。
 全裸になった。
 張りついていたパンティが離れて外気に触れると、それまで躰の一部に甘んじていたわれめが、たちまち、自己主張しはじめた。
 全体に、の裏側がくすぐったい。太腿の付け根のあたりが、どんよりと怠くなってきている。
 そのうえ、いまにもオシッコが洩れそうな、下腹の危うい膨張感……。
〈これだもの……。〃準備〃なしには、あぶなくて抱かれることなんてできやしないわ……〉
 麻美は、シャワーをザーザーと放ったまま、タブには入らず、そのまま便器に腰をかけた。
 そして、放尿――。それも、生半可な放尿ではない。膀胱の最後の一滴まで、完全に絞り出す。いきみすぎて秘口が捲れ上がるほど……。
 今夜は、ビヤホールでかなりの量のビールを飲んでいるので、出が激しい。それを、全部出し切ってしまわなければならない。このときの尿を、ほんのわずかでも膀胱に残しておこうものなら、いざ挿入となったとき、不安な、不快な思いをしなければならないから。
 放尿が終わってからも、数分間、納得がいくまでそこに座りつづけ、そして、ようやく、麻美は立ち上がった。
 バスタブに入る。
 シャワーに、躰を晒す。
 だが、麻美はここでも、普通の浴び方はしない。洗うのが目的ではないから。あくまでも、これはファックの〃準備〃なのだ。
 まず、乳房とわれめ以外、全身にかるく石けんを塗り、手ばやく流す。
 それから、シャワーの温度をかなり上げて、乳房に向ける。
 熱いお湯をかけつづけながら、指で乳首を摘み上げる。
 そうやって摘み上げたまま、お湯の熱さに耐えてしばらくじっとしていると、摘んだ指の間で、乳首がゆっくりと充血ってくる。
 男性の指で刺激されたときなどとはまるで違う、ひどくゆっくりした充血ち方――。これがいいのだ。温められながら、自分の指の刺激で硬くなった乳首は、その硬さが長くつづく。こうしておけば、ファックのあいだずっと、乳首の昂りを保つことができる。
 乳首がすっかり充血ったら、次はいよいよわれめである。
 シャワーを、熱くしたままわれめに向ける。かなり近くに。
 そして、指で、われめ全体をこする。なんの容赦もいらない。力を指にこめて、夢中で擦りたてればいいのだ。
 そうすると、焼けるような熱さと摩擦とで、われめはじきに、赤剥けそうに痛くなってくる。
 そうなれば〃準備〃完了なのだ。
 麻美は、バスタブを出た。そして、再び便器に座り、オシッコが一滴も出ないことを確かめる。
「よし……と」
 立ち上がり、われめに膿んだような痛みを感じながら、小さく呟いてシャワーを止めた。
 バスタオルを胸に巻きつけ、脱ぎ捨ててあった服を抱えて、ドアを開けた。
 田川は、さっきと同じような格好で、まだテレビの前に居た。格子縞のジャケットだけは脱いでいる。
「出たのか? もう」
 一、二テンポ遅れて、彼は振り向いた。いや、麻美の知っている彼の性格からすると、故意に遅らせたのだろう。本当は神経質なくせに、〃無頓着〃とか〃余裕〃とかを見せたがる男なのだ。テレビに熱中しているようでも、本当は、バスルームの中の気配に聞き耳を立てていたのかも知れない。そんな男である。
「俺も入ろうと思ったんだけどな」
「シャワーだもの。すぐ終わっちゃうわよ」
「ビール飲むか?」
「いい。それより、シャワーしてきたら?」
「面倒くさくなってきたなあ。今日、次の作品の打ち合わせで、桃木さおりに会ったんだ。あのコ、わがままだろ。気ィつかって、疲れたよ」
 田川は、シャワーをやめる理由を、めいっぱい拡大して喋った。いつもこうなのだ。自分の仕事がいかに派手やかかという話を、なにかにつけてしようとする。
 人気女優と打ち合わせをするのが日常茶飯事のような顔で彼は喋っているが、実際にはめったにないことなのだ。四十三歳にして、映画のを書くのはまだ二度目という、一流には足りないシナリオライターである。
「桃木さおりって、きれいでしょう?」
 田川に媚びるように言ってしまってから、麻美は、そんな自分をダサイと思った。〃桃木さおりなんて、どうでもいいわ〃という態度をとったほうが、ずっとオシャレだったと……。
〈だめ、だめ……変に媚びちゃ、だめ……。こういうタイプのひとは、わがままな、きつい女にひかれるんだから……〉
 田川のことは、本当はよく判っているのだ。どんな性格で、どんな女が好みなのか。どんなクセがあり、実際はどの程度の内容をもった男なのか……。
 判っていながら、ついついダサイ媚び方をしてしまうのだ。いざとなると、相手をうまく扱えなくて……。
 麻美は、そんな自分が情けなかった。
 が、情けなくても、田川の愛人でいるためには、そうするよりないのだと、開き直ってもいた。いやな部分をたくさんもっている彼を、そのいやな部分ごと愛しているから……。
「わがまま女の相手をするほど、俺はもう若くはないよ」
 田川は、心にもなく桃木さおりを否定しながら、立ち上がった。
 そして、ズボンを開けながら、ニヤニヤと麻美に近づいて来た。
「麻美で満足だよ、俺は」
 麻美のバスタオルを外しながら、田川は囁いた。
 効果的な囁きのつもりだったのだろうが、麻美には、むしろムッとくるセリフだった。
〈満足してないってことでしょ、つまり……。〃おまえで我慢している〃ってことじゃないの……〉
 麻美は、に出そうになるのを、グッとこらえて微笑んだ。
〃満足〃という表現ことばは、微妙である。本当に満足しているときは、言葉に出してそう言ったりはしないのではないかと、麻美は思っている。
 ところが、田川ときたら、この言葉をさかんに使うのである。寝室に居るときに限って……。
 麻美は、言われるたびにムッとなるこのごろなのだ。
「麻美は、優しい、若いし、いいカラダをしてるしさ――」
 バスタオルが、足許にパラリと落ちた。
 あらわになった白い裸体を、田川は服のまま抱きしめた。
 麻美は、全身の力がいっぺんに抜けてしまい、手に持っていた服を落とした。
 
 
 
 
〜〜『夜に燃える肌』(中村嘉子)〜〜
 
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