官能小説販売サイト 北沢拓也 『不倫百景』
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北沢拓也    不倫百景

目 次
昼下がりの魔性
可憐なる吐蜜
人妻痴情コール
しなやかな獣性
紫陽花夫人発情
陰花密猟す
母と娘のしずく
昼と夜の女唇
痴色乱色

(C)Takuya Kitazawa

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   昼下がりの魔性

     1

 午後一時をまわると、たねむらしゅうへいは、自分のデスクから腰をあげた。
 この日、彼は朝からそわそわと気持ちが落ちつかなかった。
 女と密会する日というのは、気分が昂揚して、どうにも落ちつかない。
 まして、相手が初手となると、なおさらであった。
 この甘い緊張感のような胸騒ぎは四十を越えたいまも、二十代のときと変わらない。
 女と会うのに、これほど胸が高鳴るのは、種村が人一倍好色であるからなのだが、しかし、女性は仕事以上に彼の生き甲斐なのだから、これはいたしかたない。
 種村のいる部長室は、硝子のパーティションによって、他の営業の課員たちのいるオフィスとは区切られている。
 デスクの背後は、三面の硝子窓で、ブラインドを引いていないので、柔らかく明るい陽射しが、半個室の彼のデスクに降りそそいでいる。
 ふかきょうとの待合わせは、二時である。
 待合わせ場所が、西新宿のリージェンシー・ホテルのロビー階にある喫茶室なので、種村が勤務する『東亜ファイナンス』新宿支社の南新宿のビルからだと、歩いても三十分とかからない。
 種村は、椅子から立って、スチール製のワードローブをあけ、上衣をとり出した。
 上衣を着こんでいるとき、ドアがあいて、課長の刈森が顔をのぞかせた。
「午後からの予定は、どうなっているのでしょうか?」
「ちょっと外出してきたいのだが……」
「そうですか」
「なにか、ぼくに用事でも?」
「いえ、三時に住宅ローンの相談者が二名ほど見える予定ですが……」
「それは、きみが面接してくれ。あとで書類で検討させてもらうよ」
「畏まりました」
 刈森は軽く一揖すると、あけたままのドアから出て行きかけた。
「あ、ちょっと刈森君」
 種村はネクタイを締め直しながら、課長を呼びとめる。
「はあ……」
「先々週の深谷恭子の件だが、あれからきみのほうに何か連絡はあったかい?」
「深谷恭子……ああ、例の画廊経営者の女性ですか?」
 種村は頷いてみせる。
「一度お礼の電話がぼくのところにありましたが……部長のところにはないのですか?」
「ないね」
「それは非礼な女ですねえ。むしろぼくよりも部長に礼を述べるのが筋なのに……」
「わたしは嫌われたのかな」
 種村は、わざと刈森に渋い顔をつくって見せ、一緒に部長室を出た。
「夕刻の五時には戻ってくるから。ぼくに電話があったら、聞いておいてくれ」
「わかりました」
 いまは昼めしどきなので、ほとんどの社員がめしを食いに行っていて、広いオフィスのなかは閑散としている。
 オフィスを出て、下から上がってくるエレベーターを待つ。
 深谷恭子の目のさめるような美貌が頭の中に甦った。
 種村がこの日、恭子と密会することについては、種村と恭子の二人だけの秘密である。課長の刈森も知らない。
 深谷恭子は、原宿で画廊を経営している。店を拡げたいので、四千万ほどの金を融通して欲しいと言ってきた。
 最初に、刈森のところに話はもちこまれ、刈森にいわれて、種村は恭子と会ってみた。渋谷のパルコの傍のコーヒーハウスであった。
 種村は、恭子の美しさに目を見張った。
 色が抜けるように白く、やや下ぶくれの男好きのするまるく肥えた頬も種村の好みであった。
 切れ長のたえず笑いをたやさぬ眸に、ふと妖艶な色香がこぼれるときがある。
 小さくすぼまった朱い唇も艶めかしい。
「そんなにあたくしの顔ばかりご覧になって、わたし、しな顔をしています?」
「いや、その逆ですよ。あまりお美しいので、ちょっとびっくりしています」
「お上手ですのねえ……」
 恭子は面をふせてはにかむ。
「貴方のような美しいひとなら、個人的に融資してでも、自分のものにしたい」
「ご冗談ばっかり」
「いや、本心ですよ。あなたさえウンと言って下されば、四千万ぐらいいつでもご融通しますがね」
 種村は身を乗り出していた。
 彼は、女はすべからく押しの一手だと考えている。
 深谷恭子に病身の夫がいることも知っている。刈森に聞いていた。
 だからこそ、押しの一手なのである。
 まして、相手にも弱みがある。
 おそらく彼女は、始めに銀行に融資の話をもちかけているはずである。銀行に断られて、種村の『東亜ファイナンス』を頼ってきた。
 こちらの下心を断れば、四千万の金を貸してやらなければいいのだ。
 さて、どう出るか……。
「……本気にしましてよ」
 恭子は顔を上げて、そう言った。
 瞳に悪戯っぽい光が宿り、頬がこころもち紅潮している。
「本気で考えて下さい」
「でも、わたしには夫がいますのよ」
「知っていますよ。肝臓を悪くされて、ずっと入院中なのでしょう。ご主人にかわって画廊を切りまわしていらっしゃるんだから、一度ぐらいご主人を裏切ってもバチはあたりませんよ」
「強引ですのねえ」
「強引さだけがとりえの男でして。今夜、どうですか? どこかで食事でもして、そのあと……」
 あとはホテルで、という言葉を、種村は曖昧ににごした。
 相手は子供ではない。三十四歳のれっきとした大人の女である。
 ここまでいえば、通じるはずである。
 しかも、相手の夫は入院中ときている。つつましやかに構えていても女ざかりの浮気の蟲が騒ぎ出す夜もあるにちがいない。
 恭子の側からすれば、種村の誘いを受けることは、金も借りられる、自分の欲望も充たされるで、一石二鳥のはずである。
 もっともこうした推測は、種村の身勝手な解釈にすぎないが、彼は恭子が自分の誘いに乗ってくる自信があった。
 男のカンといってもいい。
 
 
 
 
〜〜『不倫百景』(北沢拓也)〜〜
 
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